恋かもしれない
極至近距離から声が聞こえ、そろそろと目を開くと上から顔を覗き込まれていた。

目が合ってしまい心臓が跳ね上がる。

ち、近っ。というか、こ、こ、このお方は――――。

「ま、ま、つざき、さん?」

何で? どうして、このお方がここにいるの? 

私宙に浮いてる? お、お姫様抱っこ? どういうこと?

「あ、あ、あ」

「綾瀬さん、足は痛くないですか?」

「あ、は……はいっ、痛く、ないです」

「それは良かった」

安心したように微笑む松崎さんは、なかなか下ろしてくれず、「どの本ですか?」と優しく聞いてくる。

展開についていけず、頭の中に疑問符がたくさん浮かんだまま、おずおずと棚を指した。

「そ……あの、あれ、です……スウェーデンの」

「ああ、あの厚い辞典ですね? 分かりました」

ようやく下ろされて、身軽に踏み台に乗る松崎さんをぼーっと見つめる。

心臓が破裂しそうに脈打っていて、脚が震えて一歩も動けない。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、ございます」

受け取ってみればズッシリと重く、四人もの著者名がある。しかも……。

「た……高い」

辞典が二万四千九百円って、うそでしょう?? 

こんなの、とても買えない。どうしよう、折角取って貰ったのに。

「スウェーデン語の勉強ですか?」

「はい、あの……仕事で、知ってた方が、いいと思って……でも」

「テキストはお持ちなんですか?」

「いえ、何も」

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