恋かもしれない
『連絡が遅くなってすみません。スウェーデン語の本の件なんですが、もう入手されましたか?』

「いえ、まだ、です」

『良かった! 漸く仕事がひと段落したもので……綾瀬さん、今度の日曜空いてますか』

「は……日曜、ですか?」

『はい。あ、まさか、デートの約束とか、入ってます?』

「へ? や、いいえっ、そんな相手はまだいませんっ……あの、空いて、ます」

『じゃ、朝十時。夢野書店前で待ってます』

「ゆ、夢野で……はいっ」

通話を終えて、ふぅと息を吐く。

何とか、お話出来た。まだ胸がドキドキしている。

なにしろ、男性と電話で話すのは、親戚の叔父さん以来なのだ。

ぷつんと切れる前、電話の向こうから駅のアナウンスとベルの音が聞こえてきた。

松崎さんは、移動中なのだ。忙しそうだったな。

「ねえ、奈っちゃん?」

「――はい?」

美也子さんがいつの間にか横に立っており、キラキラな瞳で私をじーっと見ていた。

「あ、あ、あの、何か?」

「何もないわよ! お疲れ様!!」

バンッ、と私の背中を叩いてくる美也子さんは、満面の笑顔だった。
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