恋かもしれない
シートベルトを外して更にグッと近づいてくるから体がカチンと固まる。

すぐ前、私の膝に触れそうなところにいる。

近い。近すぎる。

逃げようにもどうにも動けず、声も出せない。

目の前でゴソゴソ動く松崎さんからは、シトラス系の爽やかな香りがしてきた。

「風向きここでこうすると動くんで。まだ寒いようでしたら、好きに調整してください」

エアコンの送風口を指先で示して、松崎さんは姿勢を元に戻した。

「あ……。は、はい、ありがとう、ございます」

心臓が口から飛び出そうにドキドキしている。

ついでに目も回りそうだ。

これは一体何が起こっているのだろうか。

全てが想定外過ぎて、頭の中には疑問符ばかりが浮かぶ。

車はいつの間にか高速に乗っており、どうやら本気で遠出するようだ。

こうなったらもう、覚悟するしかない。

「あ、あの、松崎、さん?」

「はい?」

「一体、どこに?」

「それなんですが。こっち方面では二択あるんです。まず、そうだなぁ、綾瀬さんは、魚は好きですか?」

「はあ、好きです」

「じゃあ、決まりです。俺の趣味全開で申し訳ないですが、付き合ってください」
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