夢はダイヤモンドを駆け巡る

第4話

「これは間違いないよ。先生に聞いたんだもん」

 友人は誇らしげに語る。先生からの話ということは疑う必要はなさそうだ。

 さらに、こんな話まで。

「松本くんってスポーツだけじゃなくって勉強もできるんだよね。だからうちみたいなガリベン進学校に入ったんでしょ?」

「ほらほら、入学式のときの新入生代表のあいさつって松本くんだったじゃん」

「そうだったっけ」

 わたしは首を傾げる。二年生のわたしにとって、入学式は遠い過去の出来事だ。そもそも入学式なんて退屈だし、あいさつなんてまともに聞いていなかっただろう。

「かおる、記憶力悪いなあ。心配するわぁ。……あれってね、入試の点数が一番良かった人があいさつするんだよ。だから松本くんはわたしたちの代の首席入学者なんだって」

 さりげなくののしられたような気がする、けれど。

 この話が事実であるならば、松本大輔恐るべし。天下無敵、完璧人間の到来だ……。

「だけど全然威張らないよね、松本くんは」

「だよね。それにちょっと顔もいいかも」

「そうかな?」

 わたしは松本くんの顔を思い起こす。スポーツマンで印象がいいといえばいいけれど、特に美男子というわけではないのではないだろうか。

「かおるにはわからない良さがあるんだよー」

 二人はそう言うと、にやにやしながら野球場の方を凝視しだした。わたしもつられて、松本くんの姿を探す。数人いる中でも、彼は目立っていた。クラスの中ではあれほど息を潜めている彼だが、ひとたびグラウンドに出てしまうと突如オーラを放ちだすようだ。何かが他の部員とは違う。

 友人は声を潜めてこう言う。

「松本くん、彼女作ったことないらしいよ。野球部の奴に聞いたの」

 へえ、そうなんだ。

「松本くんって、もてないの?」

「そんなわけないでしょ。世間一般の常識からいって、高校球児、特にピッチャーはどのポジションの球児よりもモテるものなのよ。女子からも男子からも」

「最後の一言余計だよー」

「だっていいお尻してるじゃない」

「お尻よりも太ももの方が素敵じゃない?」

 二人はそう言って脇をつつきあっている。やれやれ。

「バレンタインとかいっぱいチョコもらうのかな」

「そりゃ、そうでしょ」

「じゃあどうして彼女ができないの?」

「できないじゃなくて、作らないだよ。きっと部活と勉強以外のことには興味ないんだよ。女の子とは必要最低限しかしゃべらないんだって」

「女子にとってはそういうところが、むしろ魅力的なんだよ。わき目も振らず一生懸命!って、なかなかそういう男子はいないから」

 なるほど、その気持ちは分かる気がする。おしゃべりでファッションに夢中な男子よりも、寡黙でスポーツまっしぐらの男子の方が、ミステリアスな部分もあって、恋心をくすぐる。小神みたいな変人は当然、圏外だ。
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