夢はダイヤモンドを駆け巡る

第2話

「いやー、かおるが責任感の強い子だったなんて、知らなかったー」

「ほんとねー。でも、会計委員だなんて、ぴったりじゃない」

 わざとらしい棒読みの声を無視して、放課後わたしは三年生の教室へと向かう。

 わたしが何かしらの委員を引き受けるというのが、友人は愚かクラス中のだれもが予想していなかったということ。

 それから、まさに松本くんが会計委員に立候補した直後にわたしが挙手したこと。

 この二点が合わさって、教室は一瞬沈黙し、それから冷やかしの声、苦笑、「星野って実は松本に気があるんじゃね?」などと恋愛感情を好き勝手に憶測する声で満ち溢れ、担任がそれを制止し、そのドタバタの空気の中でとんとん拍子に他の委員が決定していったのであった。

 みんな、どれだけわたしに金銭を扱わせたくないのだろうか……

 軽くショックを受けつつも、でもわたし自身、自分が何かの委員を引き受けるだなんて(それもクラスの金銭が関わる重要な仕事だ)考えていなかったのだから正直驚いている。

 何かの力がわたしにそうさせたのだろう。

 さて、会計委員に立候補しその後他に候補者がいなかったため無事正式に委員として認められた松本くんとわたしは、早速今日の放課後、委員会に出席しなければならないことになった。

 なんでも今年度の予定や計画なんかをざっと確認する、顔合わせも兼ねた第一回委員会が開かれると言うことだ。

 そのため、松本くんもわたしも部活を休んで、三年一組の教室へ。

 三年生の教室は三階にあった。ちなみに、フロアの数と学年の数は一致しているため、わたしたち二年生は二階に教室があるということになる。

 しかし会計委員を容易に引き受けてしまったはいいが、わたしはちゃんとクラスの会計を一年間管理できるんだろうか。

 今さらながら不安に襲われている。

 だが恐れることなかれ、わたしの横にいるのは他でもない、松本大輔なのだ。

 彼に任せておけば万事うまく事が運ぶはずだ――などと、初めからわたしは頼る気満々だった。とはいっても、何から何まで松本くんに任せる気はないのだが。わたしにだってちゃんとプライドというものがある。

 三階へ上る階段を昇りながら、「わたしそそっかしいけど、仕事はちゃんと頑張るから一年間よろしくね」と松本くんにご挨拶を済ませる。

 例によって例の如く松本くんはあまり表情を変えずに、

「俺もそんなにしっかりしてないから、頼むな、星野」

なんてまた優等生的返答。

 どうやったらとっさにこれほどの模範的解答が口から出て来るのだろう。

 わたしには五十年訓練を積んでもこんな返事は出来ないと思う。

 いつだって馬鹿正直なのだ。
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