夢はダイヤモンドを駆け巡る

第3話

 三年一組の教室を開けると、すでに数クラスの会計委員が集まっていて、黒板には「第一回 会計委員会」と簡潔に書かれている。適当な隣り合わせの席に二人揃って腰かけようとした、まさにその時だった。

「おや、星野さんではありませんか。それから、松本くんも」

 教室の隅っこから掛かった声に、わたしはまたか、と肩をがっくり落とした。

 見れば白い顔に細い縁の眼鏡をかけた人物が、いつも通り何食わぬ顔でわたしたちの方に視線を向けていた。

 もちろん、小神である。

 さっきまで松本くんの健康的に日焼けした顔を見ていたせいか、小神の顔の白さがいつになく際だち、白い仮面をかぶった人物か、あるいはお化けのようにしか見えない。

「……なんでいるんですか。この教室、今から会計委員で使うんですよ。部外者は早く出て行かないと、邪魔ですよ」

「それなら全く問題ありませんよ。私も会計委員ですから」

 間髪置くことなく繰り出された回答に、わたしは唖然とした。小神の回答が意味するところはただ一つ。

……こいつと定期的に顔を合わせることになるってことか!

 始まる前から会計委員の職務に対するやる気がぐんぐん降下している。嫌だ嫌だ、誰か交代してくれ……。

 ただでさえ校内で見つかればいちいち絡んできて鬱陶しいことこの上ないというのに、その上会計委員なんて言う口実までプラスされてはたまったものではない。

 現在以上に話しかけられる頻度が増えるのは目に見えている。

 仕事の話ですだとか何だとか言って執拗に話しかけて来る小神の姿が容易に想像できる!

「どうしましたか星野さん、顔色が悪いようですが? ついでに言えば膝が震えていますが」

 がくがくわたしの膝が震えるのは傍目に見て分ったらしい。

「原因はわかってるでしょうに……」

 伝わりそうにもないが一応口にしてみると、案の定小神は「心当たりがありませんが」などとすっとぼけた返答。この先輩は分かっていてわたしの嫌がることをしているのか、それとも本当に無自覚なのか、どっちだ。

「星野、椅子」

 すっとぼける小神にいらいらしていると、すっと横から椅子が出て来た。出してくれたのはもちろん、松本くんだった。口数は少なく、行動は男前。

 小神とは正反対の言動に、わたしはいたく感動し、感謝し、感涙した。

「ありがとう。どこかの誰かさんと違って、本当に松本くんは人間としてできてるよね」

 わたしは割と本気でその言葉を口にしたのだが、どうやら彼は冗談だと思ったらしく、口元にほんのりと微笑を浮かべた。

「小神先輩と同じ委員なのがそんなに嫌なのか?」

「もちろん! 心の底から嫌だよ!」

「おやおや星野さん。天の邪鬼的表現にしたって限度があるってもんじゃないですか。いくら精神修養を積んだ私とはいえ、さすがに今の言葉は――」

「黙ってください」
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