夢はダイヤモンドを駆け巡る
第五章 松本大輔はバットを振る

第1話

 あの後、副委員長は無事に三年生の中から選出され、一年間の委員会のスケジュールを決めたところでお開きとなった(副委員長は結局くじ引きで決められた)。

 それからというものしばらくこれといって取りたてるほどの委員会活動はなく(四月中はそんなものかもしれない)、毎日それまでとあまり変わり映えなく過ごしていたが、一週間たった今になっても、あのときの松本くんのファインプレーに対する感謝の念は薄れることなく、さらに小神の微笑の謎は解けることなくわたしの心の中に横たわっていた。

 だが、そんなことはわたしの心の中のほんのわずかな部分だけを占める、些細なことでしかなかった。それよりも、最近のわたしを悩ませているのが、

「ふぁ~あ……」

慢性的な眠気。有無を言わせぬ、大地を襲う大津波の如く押し寄せる眠気と欠伸こそ、ここ最近のわたしを悩ませている事象のひとつだった。

 何を隠そう、最近のわたしはどうやら寝つきが悪いというか、眠りがそもそも浅いようで、なんだか寝ている間も夢にうなされ、起きたときには何の夢を見ていたかはさっぱり忘れてしまっているが、寝不足感だけが残っている、といった出来事が頻発していた。

 春だから「春眠暁を覚えず」ってやつでしょ――だなんて友人たちにはからかわれたが、それならば毎年この時期にこういった眠気が襲っているはずだろう。これまで春に慢性的な眠気を感じたことなどない。

 眠りが浅ければ、肉体的に疲れるのではないかと思いきや、何日たっても疲労感は現れてこない。ただ浅い眠りと日中の眠気がある、それだけなのだ。

 これにはわたしは正直戸惑った。なぜなら、わたしはもともと寝つきがいいほうで、普段からあまり夢を見ることもなく、夜は熟睡するのが当然、といった生活を十七年近く送ってきたからだ。

 金曜日の朝、わたしが欠伸を繰り返しながら、教室のある棟と生物教室のある棟の渡り廊下を歩いていると、

「男性にせよ女性にせよ、欠伸をするときは手で隠した方がいいと私は思いますよ、星野さん」
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