夢はダイヤモンドを駆け巡る
小神のフォーク&ナイフ捌きは実に見事なものだった。
図らずもわたしはその手つきに見とれる。
その動作は小神の目の前にあるハンバーグがまさかたったの六百円(税込)とは信じられない雅やかさを備えていた。
食事をする際の完璧なマナーとは、たとえファミリー・レストランの安価なメニューでも、老舗ホテルのお一人様一万円は下らない高級ハンバーグを食しているように見せるものなのかもしれない。
しかも、舌を巻くべきはフォークやナイフの捌き方ばかりではなく、その表情だった。絶対においしくないことを臭わせる表情は見せない。食べ終えたとき小神の顔に浮かんでいるのは、満悦だけだ。
学校の食堂しかりファミリー・レストランしかり、どうしてこんなにおいしそうに安い料理を上品かつおいしそうに食べることができるのだろうか?
ふと気付けば、若い男性アルバイト店員までもがふとサーブに駆けまわる足を止め、小神のハンバーグをすっと切る手つきをうっとりと見つめていた。
そして少しでもその典雅さに近付きたいとばかりに、お冷の入ったボトルを手に、いそいそと我々の背丈九センチばかりのグラスに水を注ぎ込みに来た。
大してどちらのグラスの水も減っていなかったけれど、そうせずにはいられなかったのだ。
そして小神のナイフさばきに意識を取られるあまりだろうか、お冷を注ぐ手が震え、わたしのグラスから水が少し零れる。
「失礼しました」と僅かに上ずった詫びの言葉を入れると、静かに零れた水を拭き取り、彼本来の仕事へと戻って行った。
少なくともここ数分の我々の周りで起こった出来事は、わたしの目にはそう映ったのだ。