夢はダイヤモンドを駆け巡る

第2話

「本題に戻りましょうか」

 辛さを白米で中和しているわたしに、小神は告げた。

「私の能力が星野さんに転移する前、つまり私がまだ他人の夢を見る力を持っていたころの話なのですが」

 小神が自分の過去の話をするのは珍しかった。

「何を隠そう、私もこの能力を生まれながらにもっていたわけではないのです。星野さん同様、私もこの力を高校一年の時にある人から移されたのです――ちなみに女性です」

 わざとらしく性別を付け加える小神。何の意味があるのだ。

「この能力を得てしばらくのうちは今のあなたのように意図せずして他人の夢の中に迷い込んでしまうことがしばしばありました。しかし次第にこの力に慣れ、コツを掴みだすと、意図的に特定の人物の夢の世界へ入り込むことが可能になりました。夢の中に入ること――これはもっと露骨な言い方をすれば、他人の本心を知る能力を私が身に付けてしまった、ということです。はっきりと言葉に示されるわけではありませんが、何度もその人物になりきり夢を見るうちに、その人の本性や本心が自ずと明らかになります。誰が何を望み、誰を愛し、誰を厭っているのか。どんな悪事を企て、どんな苦悩に苛まされているのか。ありとあらゆる人の心が、夢を介して知れてしまうのです」

 そこまで話してから、小神はまたしても美麗な手つきでハンバーグの一片を口に運びいれた。

 咀嚼する間はかたくなに口を閉じ、一言も漏らさない。
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