夢はダイヤモンドを駆け巡る
 小神は列車が通過する間じっと高架を見上げていた。

 その時初めて、小神は案外やわらかい髪質の持ち主で、なおかつ髪の量が多い方なのだということに気付いた。

 夏が来るころには重苦しくなっていそうである。

 列車が通過しきってから、小神は視線を川面へと移動させた。

「星野さん、あなたは覚えていますか? 私と星野さんが出会った時のことを」

 筋を教えてくれるのかと思いきや、全く関係のない質問が飛び出た。

 少々面食らって、

「えっと、わたしと先輩の出会いですか?」

風で乱れた髪を手串で整えながら、わたしは少々考える、ふりをする。

「えー、そんなの忘れちゃいましたー……ってんなわけないですよ。食堂で大変ご丁寧にお節介を焼かれましたからね。よーく覚えていますよ」

 もちろん、忘れようはずがない。

 ゴールデンウィーク明けのある日、食堂で唐突に話しかけてきた名も知らぬ風変わりな上級生のことなど。

〈きみ、日替わりランチを注文するなんてナンセンスだ。ギョーザを頼みたまえ、ギョーザを。ここのギョーザは一級品なのだよ〉

〈ギョーザなんて食べたくないです。口がにおって午後の授業に出られなくなるじゃないですか〉

〈小物ですね〉

 こんな下らないやり取りを覚えているわたしもどうかしたものだと思うけれど、あまりにも「小物」の一言がカチンときたものだから印象に残ってしまったのだ。

 本当ならば小神のことなんて一切合財忘れ去ってしまいたかったのに。

 小神は少し満足そうな笑みを浮かべた。

「私もはっきりと覚えています。まさか入学したての後輩にあれほどまでに反抗的な態度を取られようなどとは夢にも思っていませんでしたので」

「それはそれは失礼いたしましたー」

 全く謝罪の念のこもっていない謝罪文句を口にする。
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