それでも君を
episode4*
「梨央、退院おめでとう。頑張ったな」



「颯くんありがとう」



「暫くは一週間毎に外来へ来てくださいね」



「えー、せっかく退院なのに水沢先生嫌な事言う」



全然怒っていないけれど、少しムッとした表情をしてみせる。



だけど、やっぱり退院は嬉しくてすぐ顔が緩んでしまった。



「梨央ったらもう。みなさん本当にお世話になりました」



隣で挨拶をしている母の姿を眺めながら、私はあの夜の事をふと思い出していた。



あの時の水沢先生の顔をもっとよく見ておけばよかったと思う。



どんな表情をしていたのだろう。



どんな思いが詰まった言葉だったのだろう。




「立川さん?ぼーっとして、どうかしました?」




水沢先生が取り乱す姿を見たのはあれっきりなく、その後の診察の時も、そして今も、何事もなかったかのように普通だ。




「…ううん、なんでもない」




そう返事をしながら、私も何事もなかったかのように水沢先生に笑顔を返した。

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