残り香
やっぱり、死んだとか嘘だったんだ。
私が見ていた悪い夢。

「柴崎さん……」

一度まばたきして目を開けると、そこに柴崎さんの姿はない。
心細げに蛍光灯が照らす課内には私ひとりだった。

「幻……」

椅子に座り直し、カタ、カタ、と力なくキーを再び打ち始める。

きっと、いまの私を見れば柴崎さんは怒るだろう。
ちゃんと休め、無理するな、身体を大事にしろって。
でも柴崎さんはもういない、もういないのだ。
それがますます私を悲しくさせた。



「柴崎さん……」

「おまえがいつまでもあぶなっかしーから目が離せないだろ」

死神の口から出たのはいつも柴崎さんが口癖のように言っていた言葉だった。
そっとフードを落とすと、眼鏡の奥で柴崎さんが笑っている。

「柴崎さん、柴崎さん、柴崎さん……」
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