Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
「お初にお目にかかります。

スタゴナ公爵家のリリアンヌと申します。

よろしくお願いいたしますわ。」

笑顔で自分は名前を名乗り、お父様と仕事の関係が深い順番に挨拶をする。

「お母さん似で、きれいだね。

君のお父さんにはいつもお世話になっているんだよ。

こちらこそ、これからもよろしくお願いします。」





ふぅ、やっと一通り終わったわ。

後少しでダンスが始まるし、今のうちに何か飲んでおかないと。



「リリアンヌ嬢、私と一曲。よろしければ。」

「いや、ここは私が先に。」

「待て、俺の方が位が上だぞ。譲れ。」

「なんだと?」

あぁ、どうしよう。

こんなに目立つところでけんかなんて。

「皆さまごめんなさい。今日は先約があるので、、、」

「「誰とですか!?」」

息ぴったりの3人組を、大人しく退ける方法なんて知るわけもない。

おかしいわ。

フォルティスに、誘われて困ったら、こう言えって言われた通りに言ったのに、、、

ここで名前を出しても、はぐれているからダメだし、、、

「今は、ちょっと遠くにいるので探したいのですが、、、」

「そんなふうに放っておかれているならば、私と踊りましょう。さぁ、ほら。」

想像以上の押しの強さに、対抗する言葉がすぐに出てこない。

「おい、彼女と最初に踊るのは俺だが?

お前らはなんだ。」

後ろからドスの効いた声がして、その場の温度が2度と程下がる。

「フォルティス!」

安心して振り向く私に、少し微笑んで見せると、ぎろりと3人を睨んだ。

「悪い、遅くなった。ごめんな。

ちょっと待ってろ。





おまえら、スマートに誘えなかったら、諦めた方が印象はいいぞ。

怖がらせるなんてもってのほかだ。

それと、彼女は俺の大切な人だ。手を出すな。

それとも俺が怖くないのなら別だが。」

フォルティスの話を聞いて、そろそろと1歩ずつ下がり始めた彼らは、もう一度フォルティスが睨み付けると、去っていった。

助かった、、、!

静かに去ってくれて良かった。

「ありがとう!フォルティス。」

「いや。悪かった。怖かっただろう?」

「怖くはないわ。

ただ、困っただけだから。」

こういうときに、とっさに気の利いたことを言ってかわせるようになりたいのに。

その器量がまだない私は、子どもだ。

私の強がりを気づいたように、ポンポンと撫でて言った。

「そうか。安心したよ。

では、踊りましょうか?お嬢さん。」

落ち着かせるような声と、優しい手。

安心するのはきっと、フォルティスだから。

「ええ。一曲お相手してくださいな。」

こんな会話、慣れなくて笑ってしまうわ。

見上げると、フォルティスもおかしそうに笑っていた。

「一曲と言わず、たくさん踊ろう。」

「そうね。」

2人で顔を見合わせて笑うと、そっと手を取られた。

「ダンスしているときの君はすごく輝いてるね。

ダンス、好きなんだな。」

踊りながら、こっそり話を続ける。

「えぇ、すごく好き!

テンポのいい曲を踊りきるのが楽しいの。」

気分が高揚し、声も大きくなり、にこにこしてしまう。

「確かにふわふわ舞ってるみたいだよ。

上手だからリードしやすい。」

さらりと褒めてもらえると嬉しい。

でも、それはフォルティスの方だわ。

ターンのときも手を引いてくれるから、自力で回る力が少なくてすむ。

「フォルティスもダンス慣れているのね。」

思ったことをそのまま口に出してみた。

「まさか。君と踊るために練習したんだよ。

自慢の体力で、2日でだいたい習得した。」

騎士団の訓練でつけた筋肉で、ダンスを踊っているのを想像すると、面白い。

「すごいわね。

そんなに踊り続けられるなんて。」

私は体力がないから、すぐに疲れてしまうのに。

「そろそろ、疲れただろう?外で涼もう。」

息があがり、そろそろ切りやめたいなと思ったタイミングで声をかけてくれる。

「ありがとう。飲み物を取ってくるわ。

フォルティスはシャンパンでいいかしら?」

「あぁ。ありがとう。」





「「乾杯。」」

かちんとシャンパンのグラスとぶつけると、一口飲む。

運動した後の飲み物は格別に美味しいと思う。

「ふぅー。久しぶりにたくさん踊ったわ!

私は2曲目が1番好きな曲で嬉しくなっちゃって、はりきり過ぎたわ。」

「あのアップテンポで素早いターンはすごかった。

きれいに踊ってたな。」

「本当?

私の先生がその曲大好きで、すごくいっぱい練習したの。」

そこから、好きな曲や流行りの曲の話をした。

意外にも最近の曲しか知らないことに驚いた。

「君が他の男と踊る前に帰りたいな。

明日も朝から準備あるだろう?」

最後の一口をぐいっと飲み干したフォルティスは、じっと私の顔を覗き込み、目が合うとふわっと笑った。

こんな言葉をさらっと言われると心臓が痛くなっちゃうわ。

「そんなこと言っていられないわ。

明日からは誘われたら断ってはいけないもの。」

「君は、他の男ともあんなにべたべたくっつくのか?

俺はそんな光景見たくないんだが。」

「そんなこと言われたって、、、」

少し酔っているのか、子どもっぽさが全面に出ている。

「そうだよな。好きなのは俺だけだからな。

いいさ。俺だって誘われたら、踊ることにするよ。」

「なんで?どうしてそんなこと言うの?」

「疲れているにしても素っ気ない態度だと思って。

俺も疲れてるのかもしれない。

こんな少しのシャンパンで酔ったとは思えないけどな。

明日は普通に戻るから。気にしないでくれ。」

そう言って大広間への扉を開けてくれたフォルティスは、これ以上の会話を望んでいないようだった。
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