Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
「おめでとうございます。リリアンヌ嬢。

ダンスをお願いできますか?」

同じくらいか少し上のご令息に声をかけられる。

まただわ。こんなお誘いばっかり。

だからイヤなのに。楽しくないもの。

「ごめんなさい。

挨拶がまだ残っているので、また後程。」

ふんわりと上品さを出して、さっさと立ち去る。

はぁ、愛想笑いも尽きてしまうわ。

幸い、家の位が高いおかげで断れる誘いは断っている。

けれど、受ける誘いは女性が憧れる爵位の人たちばかり。

こんな感じのせいで、同い年の女性たちからは敵対視されてしまうし。

次に話しかけるべきの人が楽しそうに話していたので、諦めて給仕から飲み物を受け取り、執事を探す。

「レイン、少し抜けるわね。外の空気を吸ってくるわ。」

見つけたレインに居場所を伝えて、とっととにぎやかな場所から去ろうとする。

「かしこまりました。ショールを取ってきます。」

「いえ、大丈夫よ。少し暑いくらいだし。」

ダンスは踊っていないのに、会場にいる人の熱気に当てられて、熱くなってしまった。

「分かりました。」






「あーもう!早く布団に入りたいわ!」

バルコニーの扉が閉まったのを確認して、すたすたと手すりに近づく。

ついつい独り言も大きくなってしまう。





「それは困りますね。もう少し待って頂けますか?」

閉まっている扉の方向からする声に驚いて振り向く。

え?

見たことのない、長身の男性が1人立っていた。

家の警備が扉の外に立って、怪しい人の侵入を防いでいるはずだから危ない人ではない。

「どなた?」




どんな階級の人か分からないから、一応丁寧に伺う。

「私は黒曜騎士団のフォルティス・トゥードーと申します。

急に声をかけてしまってすみません。驚かせましたね。

贈ったドレスを今日、着てくれているなんて思わなかったので、すごく嬉しいです。」

物腰の柔らかそうな声で明かされる、気になっていたこと。

この方が、贈ってくれていたの?

衝撃が強くて、疑問がそのまま口からでてしまう。

「あなたがこのドレスも花束も?」

ふわりと微笑んであっさりと告げられる。

「そうですよ。」

拍子抜けしてしまい、不思議な気持ちになった。

「そうだったんですね、、、。

ありがとうございます。」

なんだか複雑な気分ね。

会える、とは言ってたけどこんなに簡単に会えるなんて。

しかも想像以上にかっこいい。

漆黒の短髪に青みがかった瞳。

とても意思の強そうな目。

肩幅は広くて腕は長い。

足は筋肉質が伺えて、スラッとしている。

全体的に騎士というよりは、爽やかそうな紳士と言った方が合う気がする。


そういえば、、、

「あなたも『フェニックス』なんですか?」

制服がカイの着ているものに似ていた。

カイのものより、肩周りが豪華で紋章も大きい。

「そうですよ?あなたの弟と同じように。」

私の弟のこともしっているのかしら。

カイは知らなかったのに、この方はカイのことを知っているというのが少し引っかかる。

「弟のカイのことも、ご存知なんですか?」

「フェニックスは7人しかいないので。

それに、私は一応その中の指揮官ですから。」

大したことがないことを言うようにさらっと言われる。

え!すごい人だったのね。

「そうとは知らずに、普通に話してしまってすみません。」

申し訳なさで、顔をあげられない。

「いえ。これからもそうしてください。

私はこういう場にあまり出てこないので、普通に話して頂ければ嬉しいです。

かしこまって話すのは疲れてしまいますから。」

優しい声で言われると何も反論できなくなる。

「ありがとうございます。

では、そのようにさせて頂きます。」

「ぜひ、敬語もなしでお願いします。」

ずいっと一歩大きく近づかれて驚く。

え?

難しいことを言うのね。

「さすがにそれは、、、」

「もう少し慣れたら、ですね。

それはそれでいいですが。楽しみにしていますよ。」

少し笑顔を浮かべて、目線を合わせられる。

恥ずかしくて目を反らしてしまったが、なんとなく顔を上げてしまった。

じっと目と目が合い、時間が止まる。

静けさを破るように無理やり声を絞り出す。

「あの、どうして毎年プレゼントを?」

そっと目を反らしながら問いかける。

こればかりはわからないの。

初めて会ったはずなのに、、、

「おや。残念だ。

私のことを忘れてしまったのか。

初めて会ったのではありませんよ。」

会ったときにも記憶の中にはない顔だと思ったのに。

ずっと昔だったのか、一瞬過ぎて覚えていられないほどだったのか、、、

どうしてだろう。







「これでは結婚を申し込むには早いだろうか。

リリアンヌ嬢、私はあなたと結婚したい。」





思考を巡らせていた私は、がつんと衝撃を与えられた。

もし、間違っていなければ、私会って数分なはずの男性に求婚された、、、?







「え、えぇ!?」

驚きのあまりマナー違反なほどの大きな声を出してしまう。

しかも口元は扇子で隠さなければいけなかったのに。

それにしても、そんな急に言うことじゃないわ。

何か言い間違えたのかしら。

普通はそんな間違え、ないわよね。

「まぁ、しょうがないですね。

忘れてしまっているのなら、赤の他人だ。

そんな人にプロポーズされたら、驚くに決まっている。」

申し訳なさそうにつぶやく彼を見ると、罪悪感が生まれる。

相手の言葉を受け止められない私が悪いのかもしれない。

「ごめんなさい、あなたのことを覚えていないか、知らないですし、まだ結婚したいとも思っていないので。」

心苦しいが、はっきりと伝えないと後で問題になってしまうかもしれない。

どんな表情をしているか、分からなくて顔を上げられない。

「それはそうでしょう。

ですが、これから知ってもらえばいいだけの話。」

張りのある声で告げられた、話の流れに逆らうような返事。

私のお断りの言葉が聞こえていなかったのか、と思ってしまうほどのあっさりした口調。

え、本気で言っているの?
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