Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
気になっていたことをシェヴァ王子に聞いた。

「あの、セリーナ様はどこに?」

すると、寂しそうにシェヴァ王子は答えてくれた。

「彼女は問題を解決できずにいた僕に愛想を尽かして、会ってくれなくなりました。

彼女は夜会やサロンで時々ミミ嬢にいびられていたそうです。

それを私は知らせてもらえなかった。

最後の最後別れてから、彼女の父親に明かしてもらったんです。

彼女にとって自分は信用に足る人ではなかったのでしょうね。」

つらそうに話すシェヴァ王子に釣られて泣きそうになる。

「それは違うと思いますよ。

どんな方か会ってみたことはないので断言できませんが、最後にちゃんとお話はできたのですか?

じっくり話せば、なぜすれ違ったのか分かるかもしれませんよ。

長い付き合いはその分、絆も深くなります。

一度すれ違ったとしても、戻ることができるでしょう。」

「あぁ、最後は会えないまま国境近くの別荘に籠ってしまったらしい。

怖くて会いにいけてもない。

結局僕は自分が傷つくのが怖くて、会いに行けないんです。」

そんな状況はよくわかる。

相手のことを考えるがゆえに分からなくなる。

相手のことを思いやるがゆえに行動に移せなくなる。

みんな一度は感じることだろうな。

『相手が何を考えているのかわからない。』

「シェヴァ王子とセリーナ様は仲が良くても、同じ人ではありません。

考え方も別々です。

話し合うことでお互いの考えていることを理解するのです。

察することの何倍も正確に分かるでしょう。

私は、仕事を楽しそうに語るシェヴァ王子から元気と勇気を分けてもらいました。

状況を悲観せずに、打破すると仰っていましたよね?

諦めずに勇気を持って行動をしてみてください。

私でよければ、いつでも相談に乗ります。」

必ず、今週中には会いに行くとフォルティスに約束させられ、恐々していたけれどフォルティスから先輩としてアドバイスを貰うと言ってやる気を出していた。

なかなか変な出会い方だったけど、この2人は仲良くなれるんじゃないかと思い始めた。

「ふん。

俺は、リリアンヌがここで泣き暮らしていたんじゃないって分かったから、そこだけ許しただけだ。

お友達なんて絶対に認めないからな。」

へそを曲げた子どものようだが、これは怒っていないと言っているようなものだ。

この2人はきっといい友達になる。

そう実感した。






その日は少し遅くなったので、泊めてもらい翌日朝早く城を発つことにした。

夜、来賓館のフォルティスの部屋の隣室に移動させてもらった私は、庭園が見渡せるテラスに出ていた。

「フォルティスとシェヴァ王子が仲良くなってくれそうで良かった。」

「あぁ、きっといい国王になるな。

優し過ぎる気がするけど、これからはキレイなものばかり見ているだけではいられない。

正しいことがなにか分かっているんだ、少し勇気を出せばバレンシアのような奴の界隈になったりせずに、上手く国を治められるだろうな。

国政に携われば、どんどん度胸も付くさ。」

「うん、すごく優しいもの。

国民に慕われるいい王様になってくれるはずよ。

いつか立派な公爵夫人になって再会できたらいいわね。」

2人でいつぶりにか、まったりとした時間を過ごした。

時々風に薫る花の香りや、空を覆い尽くす星。







繋いだ手からフォルティスの体温を分けてもらっていると実感が沸いてきた。

「フォルティスの元に帰ることができて、本当に良かった。

助けに来てくれてありがとう。」

「いや、当然のことだ。」

「さっき偉そうに言ったけど、俺はちゃんと公爵やっていけんのかな。

バレンシアのようなものはどこの国にだっている。

ぼうっとしていると足元を掬われる。

デガン様に信頼感してもらえているのは分かっているけど、いつそれを裏切ってしまうかわからい。

リリのことも使用人たちのことも守らなくちゃならない。

俺にその器があるのか。」

辛そうに顔をしかめながら言うフォルティスはいつもの数倍弱々しかった。

「偉そうに聞こえるかもしれないけれども、どんな人だって最初は大変な思いをするのよ。

王様になるひとだって最初から完璧になんでもできるわけじゃない。

見習いの時間をかけて周りの支えがあってようやく一人前になれるのよ。

お父様だってフォルティスに爵位を譲ってすぐにいなくなるわけじゃないはずよ。

私だって助けてもらうばかりではいられないもの、困っていたら私も助けてあげるわ。

だから、全部抱え込んで1人でやろうとしないで。」

そっと右手だけ抜き取って、フォルティスの頭を撫でてみた。

ふわふわというよりは固くて、1本1本がしっかり立っている。

自分とは違う髪質で珍しくて、ずいぶん撫で続けた。

私がやめるまで身動ぎもせずにじっとしているフォルティスは、初めてかわいいと思った。

力が抜けて、私の肩に頭を預けている。

どうしようもなくかわいくて、私からぎゅっと抱き締めた。

すると、肩口にぐりぐりとおでこを押し付けながら、ぼそりと言った。

「俺、カッコ悪い。

弱っているはずのリリを堂々とかっこよく連れ出して、慰めながら話を聞いてやろうと思って来たのに。

偉そうにしゃべって、弱音を吐いて撫でてもらうなんて。

かっこいいって思っててほしかったのに。」

不安定な気持ちが続いていたからか、フォルティスの弱音は止まらない。

それでも、、、

「私はフォルティスの元に帰って来れて、すごく嬉しかったのよ。

迎えに来てくれてありがとう。

だから、そんなに私の前でまでかっこよくいようとしないで。

これから夫婦になるんだから、いつもかっこいいフォルティスのカッコ悪いところを少しくらい見せてくれてもいいじゃない。」

力なく乗った頭を一定のリズムで撫でなから、説く。

すると、ぎゅうぎゅうと密着してしまうくらいに抱き締められて、呼吸がしずらい。

抱き締められたまま、左右に揺れて笑いあった。

フォルティスが急に真面目な顔をして、ありがとうとささやくと、唇がそっと重なった。

1度だけだと思ったのに、離れたあともう一度軽く啄まれた。

フォルティスが離れていきながら、リリ真っ赤と言ってくすくす笑っていた。

しばらく星を見ながら話していたけれど、自分でも気づかないうちに眠ってしまっていた。
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