夢物語
 ただ。


 サークル内の立場上、露骨に態度に見せるわけにはいかない。


 何事もなかったかのように、自然体で振る舞うしか。


 ……西本くんは、どういう態度で接してくるだろうか?


 普通に考えると、やはり大人の対応が予想される。


 飲み会の席の言動などから推察して、離婚後はかなり遊び慣れている様子。


 あんなの全く意味を持たない、ただの余興の一ページに過ぎないのかもしれない。


 こっちがあたふた動揺しているのを知られると、鼻で笑われるかも……。


 ビーッ。


 「!」


 信号が青になっても考え事をしていて、後続車にクラクションを鳴らされた。


 急いで発進。


 ようやく郊外に出て、しばらくは直線道路を進む。


 「あれは全て本気だった。彼女とは別れるから、冴香さんと」


 ないない、そんなこと絶対あり得ない。


 ありもしない夢なんて見るだけ損と、首を振る。


 時間の無駄。


 (冴、香……?)


 妄想の一端を改めて繰り返した時、思い出した。


 あの時西本くんは、私のことを「冴香さん」と呼んでいた。


 いつもは「高橋さん」だったのに。


 下の名前で私を……。


 無意識のうちに出てきたものなのだろうか。


 「……」


 いつしか車は、職場のそばまで着いていた。


 今日も一日頑張ろう。


 仕事中ぼーっとして、年下の上司に注意されたりしないように。
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