夢物語
 優くんは西本さんとは意図的に生活リズムをずらし、ろくに日常会話もないまま高校生活を送った。


 部活動と学業を両立し、ある程度のレベルの大学ならば選び放題だったようだ。


 おそらく家から出るために、大学は首都圏の私大を受験したもののまさかの不合格。


 やむなく札幌近郊の大学に進路変更し、入学。


 自宅からも公共交通乗り継げば通えないことはなかったはずなのに、半ば強引に家を出て一人暮らしを始めた。


 学費も奨学金とバイトで自分で稼ぐと主張したものの、「奨学金は後で返済に苦労するし、バイト三昧で本業に影響が出ては本末転倒だ」と西本さんは反対。


 優くんはかなり抵抗したものの、亡き母が残した貯金を全額優くんに渡し、学費に充てるという条件で学業に専念させた。


 母が残したお金ならばと、優くんもようやく妥協。


 優くんの一人暮らし開始に伴い、私は西本さんと同居することになった。


 亡き奥さんとの思い出の多い家に入ることに対し、私には戸惑いがあったことと、西本家は西本さんの亡きご両親が若い頃に建てた家で築50年近くなっていたこともあり、これを機に建て直すことに。


 優くんは反対するかと思ったけれど、亡き母との思い出の家に私が入り込むよりは、心機一転建て直してほしいと願ったようだ。


 もう家に戻るつもりはないらしい。


 やがて西本家は建て直され、ようやく私と西本さんとの同居生活が始まった。


 四年後、優くんは大学を卒業し、西本さんの会社に就職。


 あんなに父親を避けていた様子を見ていただけに不思議に感じたけれど、この会社は創設の際、亡きお母さんもかなり尽力した大事な場所。


 それを手放すことは優くんにはできなかったらしい。


 私の住む「実家」にはほとんど近付かず、お盆や年末年始の帰省すら避けてはいるものの、仕事場では西本さんの片腕として、次期社長として黙々と働いていたようだった。
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