夢物語

***


 「この十年で、かなりメンバーも変わったね」


 ある晴れた晩春の午後。


 このチームの部長である升田(ますだ)夫妻のご自宅に、主なメンバー共々招かれて庭で焼き肉。


 最近は練習参加頻度もめっきり少なくなり、ご隠居さん状態の升田夫妻に久しぶりにお会いできた。


 「もう俺たち夫妻は、引退だな」


 五十代半ばを迎え、世代交代の波を感じている升田部長は弱気になっている。


 「升田さんが引退なら、俺も一緒に引退だよ」


 チーム最年長で、六十を過ぎたの谷さん(たにさん)も苦笑する。


 「升田さんや谷さんにはレジェンド部として、まだまだ頑張ってもらわなくては。このチームつぶれちゃいますよ」


 長身で姉御肌の小倉(おぐら)さんが、升田さんに答える。


 「うちは升田さんや谷さんが、看板レジェンドなんですから」


 スリムでかわいいけれど、実は毒舌家の塩田(しおた)さん。


 「升田さんが引退したら、次期部長は年功序列的には小倉さんか塩田さんじゃないすか。お先真っ暗っすよ」


 若手若手と言われている賢人(けんと)も、もう30代。


 立派な中堅選手だ。


 「あんたがしっかりしてこのチームを支えてくれなきゃ、私たちいつまでたっても引退できないんだからね!」


 升田さんの奥さんが賢人に、笑いながら告げる。


 「あんなことがあって、うちのチームも一時は活動停止も考えたんだけど、」


 「……」


 升田部長のその一言で、一同一瞬沈黙に包まれた。
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