夢物語
 閉店時間の午前零時を迎える前に、店内放送で「蛍の光」が流れ始め、私たちはついに席を立った。


 内心、とても名残惜しい。


 もう二度と、こうして二人きりで食事に来ることなんてないかもしれない。


 仲間たちの中にいる二人、という関係に戻ってしまう……。


 「あ、私の話を聞いてもらったわけだから、私が」


 「いいですよ。ここに来たのは僕が提案したからですから。それに……前も言ったじゃないですか。独身に戻って、使えるお金が増えたって」


 そう告げて微笑みながら会計の際に。


 千円札を西本くんが差し出し、残りの小銭を私が支払った。


 「……今日は遅くまでごめんね。おかげで今後の見通しが立って助かった」


 「次に賢人が問題行動起こしたら、今度こそレッドカード提示しますから。高橋さんは田中さんに連絡しておいてもらえますか」


 「明日、メール返しておくね」


 「田中さんも今は頭に血が上っているのかもしれませんが、時間が経てばきっと沈静化してきますよ。だから高橋さんもあまり気にしないで。何か進展があったら、僕にも話してください」


 「ありがとう。進捗状況をまた連絡するから」


 午前零時を迎える頃、それぞれ車で帰路についた。


 西本くんの車が、環状通の三車線道路を勢いよく西へと走り去っていく。
< 84 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop