鬼畜な兄と従順な妹
「真君は私の子だが、莉緒が浮気をして出来た子どもじゃない。元々私と莉緒は、恋人同士だったんだよ」

 ”莉緒”は母さんの名前だけど、おじさんが呼び捨てで呼ぶのが、俺には耳障りだった。なんか、母さんが汚されてるような感じがして。

「それでも、浮気は浮気だろ? 母さんの夫は、父さんなんだから」

「莉緒と幸久は、本当の夫婦じゃなかったんだ。偽装結婚だったんだよ」

「え? 偽装……?」

 幸子とハモってしまった。

「もう20年ぐらい前になるが、私と莉緒、そして幸久と加代子さんは、恋人同士だったんだ。ところが、村山家と一条家で縁談が持ち上がり、もちろん幸久も莉緒も抵抗したのだが、抵抗しきれなかった。当時、今もだが、私は全く売れない貧乏画家で、加代子さんはかけだしの看護師だったからね。

 そこで私達4人で相談して、得た結論は偽装結婚だった。つまり幸久と莉緒は、両家と世間を欺き、嘘の結婚をしたのさ」

「じゃあ、おじさんと……」

「私の母は……」

「あはは。私と加代子さんは、特に世間を欺く必要はないからね。お互い独身を通して、私と加代子さんが顔を合わせたのは、あの時以来さ。
 この20年、私は気楽な生活をしてきたが、加代子さんは大変だったと思うよ。幼い幸子ちゃんを抱えて。幸久は、いつもそれを気にしていたよ」

 隣で幸子がシクシクと泣き出し、そんな幸子の肩を俺はそっと抱き寄せた。
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