鬼畜な兄と従順な妹
「真君、幸子ちゃん。やむを得なかったとは言え、今まで騙してすまなかった」

 おじさんは俺達に向かって深々と頭を下げた。しかし俺には怒りの気持ちはなく、それは幸子も同じと思われ、

「おじさん、怒ってないから頭を上げてよ。なあ、幸子?」

「うん」

「そうか、ありがとう」

 俺には本当に怒る気持ちはなかった。むしろ、叶わない恋に苦しんだ父さん、母さん、おじさん、加代子さんの事を思うと、涙が出そうだった。俺と幸子もそれで苦しんだから、なおさらそう思った。

 その時、ふと俺は気付いてしまった。俺と幸子は、立場が逆転している事に。

「俺、村山の家を出ておじさんと暮らすべきかな」

「ん?」

「えっ?」

 俺がちょっと呟いたら、おじさんも幸子もびっくりしたみたいだ。

「急に何を言いだすんだい?」

 とおじさんは言い、幸子は、目を見開いて俺の顔を見ている。

「だってさ、俺は村山家の血を引いてない他人なんだから、言ってみれば”お邪魔虫”だろ? だから、出てった方がいいかなって……」

 俺がそう言うと、おじさんは考える仕種をしたのだが、

「そんなのダメ! 絶対ダメ! お兄ちゃんと離れるなんて、絶対イヤ!」

 幸子が叫んで俺に抱き着き、それこそ号泣した。
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