鬼畜な兄と従順な妹
 俺は幸子の腕を掴み、人だかりをかき分けるようにして歩いて行った。職員室に向かって。

「おはようございます」

 と言って職員室に入ると、殆どの教師は立ち上がり、俺に向かって挨拶を返したのだが、肝心の学園長がいない。

「む、村山君、何かありましたか?」

 初老の教頭がすかさず俺達に近付いて来たが、教頭ごときと話してもしょうがない。

「学園長はいらっしゃいますか?」

 俺は優等生らしく、穏やかな口調でそう言った。内心は、腹わたが煮えくりかえっていたのだが。

「はい。ただ今理事長室におりまして……」

 なるほど。理事長がいるならちょうどいいな。

「入ってもいいですか? お話したい事があるので」

「ちょっと待ってください。聞いてきますから」

 教頭は慌てた様子で理事長室に入ると、すぐにドアを開き、

「どうぞ、お入りください」

 と言った。

 俺は「ありがとうございます」と言い、グズグズする幸子の腕を強く引き、理事長室に入って行った。

 理事長は窓を背に座っており、手前に学園長が立っていた。

「おはようございます。こっちは、今日編入した妹の幸子です」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 といった挨拶もそこそこに、俺は学園長に向かって言った。

「掲示板を見たら、僕は1組で、幸子は3組になってるんですが、何かの間違いですよね?」

 と。
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