鬼畜な兄と従順な妹
「先生、福山先生と一緒に帰ってるんですか?」

「そうよ。ついでにカミングアウトするとね、私達は同棲してるの。みんなには内緒よ?」

 同棲かあ。素敵……だけど、考えてみたら、私とお兄ちゃんも一緒に住んでるんだった。同棲とは程遠いけど。

「結婚しないんですか?」

「そうなのよ。あの唐変木、プロポーズしてくれないの。やんなっちゃう」

「春田先生からプロポーズしたらどうですか?」

「あら、さすが村山君。それはいい考えかも」

 などと話してる内に、ブラウスのボタン付けが終わり、私はそれを着て帰る事になったのだけど……

「ブラウスは何とか繕えたけど、その顔で電車に乗るのは可哀想だわね」

 と春田先生は言った。

「車を呼ぶか、タクシーを捕まえます」

「それも大変だし、いいわ、私の車で送ってあげる」

「いや、そんな訳には……」

「遠慮しなくていいから。さあ、行きましょ」

 という事で、お兄ちゃんと私は、春田先生の派手だけど可愛い感じの、赤い小型車に乗せていただいた。助手席に福山先生が座り、私達は後ろの座席。

「お兄ちゃん、手が疲れたでしょ?」

 お兄ちゃんは、ずっと氷が入った袋を私の頰に当ててくれているから、手が疲れてると思う。

「ぜんぜん」

「でも、ちょっと冷え過ぎかな、なんて……」

「村山君、冷やし過ぎはかえって良くないのよ?」

 春田先生が、運転しながらそう言ってくれた。

「そうなんですか? じゃあ」

 と言ってお兄ちゃんは手を下ろしたのだけど、その時小さくふうっと息を吐いたのが聞こえた。きっとやせ我慢してたんだわ。

 私は、「眠くなっちゃった」と嘘を言い、お兄ちゃんの肩に頭を預けた。そんな私の肩を、お兄ちゃんは優しく抱き寄せてくれた。
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