鬼畜な兄と従順な妹
 週末の夕飯時。幸子はまだ帰っていない。神徳とデートらしい。どこへ行ったのかは知らないが。

 その代わり、という事はもちろんないが、久しぶりに田原のおじさんが食卓に付いていた。

「幸子ちゃんは出掛けてるのかな?」

 田原のおじさんは、たぶん俺に聞いてると思うが、応えたくないので黙っていたら、代わりに加代子さんが応えてくれた。

「あの子、ボーイフレンドが出来たみたいで、今日は最初のデートなんですって。遅くならないで帰ってらっしゃいって、言ったんですけどね」

 と。おじさんは、「それはそれは……」なんて言って、なぜか俺の顔を見ていた。俺はおじさんの視線に耐えられないのと、話題を変える意味で、

「おじさん、どうしてイタリアへ行かなかったの?」

 と聞いてみた。我が家の大型連休の旅行に、大抵はおじさんも一緒に行くのに、今年は行かなかったからだ。

「ちょうど個展とぶつかってしまってね」

 おじさんは過去にも2、3度個展を開いてると思う。観に行った事はないけれど。

「ふーん、また1枚も売れなかったの?」

「まあね」

 と言って、おじさんは苦笑いを浮かべたが、

「有名な画廊からオファーはあったんだよな? しかも多額の」

 と、おやじさんが言った。
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