鬼畜な兄と従順な妹
 "ダメだ!"と言いたいところだが、兄妹に徹しようと決めたからには、ちょっとは聞いてやらないといけないかな。兄として。そう思ったから、

「じゃあ、ちょっとだけだぞ?」

 と俺は言った。

「うん。お兄ちゃんと直哉さんってさ、学園の二大プリンスって言われてるんだってね?」

 こいつ、いつの間に神徳を"直哉さん"って呼ぶようになったんだ? 確か前は、"直哉君"だったはずだ。それだけ深い仲になったという事か。くそっ。

「そうらしいが、俺はどうかな。もう猫被りは辞めて、優等生とおさらばしたからな。人気はガタ落ちだと思う」

「それがね、そうでもないのよ。かえってカッコよくなったって噂だよ。私もそう思うなあ」

「あっそ」

 俺の評判なんかどうでもいいが、ちっともノロケになってない気がするぞ。

「お兄ちゃんってさ、家でも喋り方を変えたよね? お父さんに何か言われた?」

「いいや、何もだ」

「ふーん、何でだろうね?」

「確かに、何でだろう」

 言われてみれば、確かに不思議だ。俺は、おやじさんや亡くなった母さんを喜ばせたくて、長年"いい子"を演じてきたんだ。

 それを急にやめたんだから、おやじさんは少なからずショックを受けたはずなのだが……

「あ、わかったかも。お父さんは、前から知ってたんだよ。お兄ちゃんの本当の性格とかを」

「そうなのかなあ」

 と言いながら、なぜ幸子はこんなにも真剣に俺の事を話すのかなと、不思議に思った。少なくても、神徳とのノロケ話とは、かけ離れた話だと思った。
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