鬼畜な兄と従順な妹
「幸子。もう自分の部屋へ戻れよ」

 俺は、このままではヤバいと思ってそう言った。つまり、幸子をベッドに押し倒し、キスやその先の事をしたいという衝動を、抑え続ける自信がなかったから。

「イヤー。まだ話は終わってないもん」

「だったら早く話せよ」

「今日ね、初めてお兄ちゃん以外の男の子とキスしちゃった」

 いきなり、それを言うのかよ?

「ふーん」

「驚かないんだ。やっぱり見てたんだね?」

「ま、まあな」

「どう思ったの?」

「何が?」

「私と直哉さんがキスしてるのを見て、お兄ちゃんはどう思ったの?」

「べ、別に……」

「ヤキモチ妬いた?」

「いい加減にしろ! 出てけよ!」

 俺は猛烈に腹が立ち、立ち上がって幸子の腕を掴んだ。力尽くで幸子を部屋から追い出すために。幸子は、俺の心をもてあそぶのが、そんなに楽しいのだろうか。

 ところが……

「直哉さんとは別れたから」

 俺はその一言で、固まってしまった。そして、幸子の横にゆっくり腰を降ろした。

「それ、本当なのか?」

「うん、本当だよ」

「なんで?」

「だって、無理だってわかったから。お兄ちゃん以外の人を好きになるって、無理なんだもん」
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