鬼畜な兄と従順な妹
 幸子の気持ちに気付いてはいたが、こんなにはっきり言われると思っていなかった。

「私、お兄ちゃんの本当の気持ちを知りたいの。もしお兄ちゃんが私を妹としか思わないなら、私は諦める。でも、死ぬまでお兄ちゃんを想い続けると思う」

 幸子はそう言い、目を潤ませた。

「幸子、おまえ……ずるいよ」

「え?」

「自分だけさっさとカミングアウトして気が楽になって、後は俺任せだもんな。俺達二人の、運命を……」

 そう。この瞬間の俺の決断が、俺と幸子の運命を決めると思う。つまり、あくまで兄妹を貫くなら、世間的には何も問題は起きない。おそらく俺は、たぶん幸子も、どこかの誰かと愛の無い結婚をし、心の中では互いに想い合うんだ。たぶん、どちらかが死ぬまで。

 だが、もし俺達が自分の気持ちに正直になったとしたら、世間的には大問題なわけで、それを隠し通す事になるだろう。そして、もし隠せなくなったとしたら、その先、俺達に未来はない。

 俺は少しだけ迷いはしたが、幸子がカミングアウトした時から答えは決まっていた。

 幸子の、黒目がちの大きな目から、大粒の涙が零れだし、俺はそれを親指で拭った。そして幸子の頭を手で支え、幸子の柔らかくて熱い唇を、俺ので塞ぎ、ギュッと幸子を抱き締めた。

 これが俺の答えだった。俺は幸子と二人で、地獄へ堕ちる事を選んだんだ。
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