異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
(……………全く………一体どうしたいんだ!勝手にいなくなったと思ったら、こんな……ふざけるのも大概にしろよ!?……ああもう……少し怖い目にあった方がいいのか?)

(咲夜??どうしたの?言ってることがわからな…………)

言い終わる前に、その体重を利用した咲夜に動きを封じられた。
更にクチバシを首筋にあてられて、思わずうわずった声が出る。

(ひゃっ!くすぐったいよ……ちょっと!)

逃れたくて体を動かそうとしても、一ミリも動かない。
私は仕方なく咲夜をじっと見つめた。
すると、可愛かった咲夜の顔がだんだんぼやけ、浮かび上がったのは見たこともない男だった。
……あれ?違う!咲夜じゃない!?

これ、誰!?

ちょっとあり得ない状況に、頭が混乱して私は呆然とした。
だが、呆然としつつも、視線は目の前の見知らぬ男に釘付けになっている。
歳は25~30くらい、日本人らしく黒髪黒目で、鼻の形がとても綺麗だ。
眉は凛々しく長く、目は切れ長の三白眼。
一見すると怒っているようにも見える整った顔は、少し泣きそうに歪んでいる。
あきらかに夢の続きだと思えるこのシチュエーションに私は……。
……簡単に流されてみることにした。
ひょっとしたら死ぬ前に、神様が私を可哀想だと思って、こういう経験を夢でさせてくれようとしているのかもしれない。
というのも、この男がわりと好みのタイプだというのが、完全なご都合主義だからだ。
だって、どうやったらこんなドストライクなイケメン用意できるの?
うん、夢でしかない。
私は死ぬんだわ………。
ただ一つ問題があるとすれば、恋愛をすっ飛ばしていきなりベッドはどうかと思うけどね!
せめてこれに至る過程を楽しみたかったと、あの世で神様に文句を言ってやるわっ!

そんな私の思いなど知らず、悲しい顔をした男は、体を離して上からじっと見つめている。
何も言わず、瞬きもせずに見つめられると、いかにその男が端正な顔立ちをしているかがわかる。
私は、恥ずかしくなり思わず目を逸らしてしまった。

(逸らすな……そうやって、君はいつもいろんなものから目を逸らす……)

いつも?って。何?どういう設定なの?

(目を逸らさずにちゃんと言え。言いたいことがあるならオレの目を見て……)

(わかった!じゃあ逸らさない!いつも、とか言われても全くわからないし、特に言いたいこともないけど、ちゃんと目を見てる。それでいい?)

理解不能な設定を無視して、男の言葉通りにとりあえず全てを肯定した。
面倒臭かったのもあるけど、何となくイラッとしたからだ。
男は一度驚いたような顔をしたけど、私の言葉についての返答はない。
ただ黙って顔を近づけて唇に触れるか触れないかの距離で止まる。
そしてそのまま、ゆっくりと体重をかけてきた。
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