異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
大原さんの激励の後、私は壇上を降りて提督さんと少尉さんの元へと向かった。
2人とも同じ場所に座っていて……あれ?提督さんの様子がおかしいよ。
どこか目の焦点が定まらない提督さんの横で、少尉さんが王子様のように手を振っている。

「お疲れ様でした。お嬢様。とても感動的でした!私もう泣くのを堪えるのに必死で……」

「えーと、ありがと。でも泣くほどのものでも……」

「何を仰る!!お嬢様のピアノにはこう……胸を打つ何かがある。上手いだけじゃない、情景が思い浮かぶようで……」

え?夏の音楽室が?
奏太の昼寝が?

「へ、へぇ……そう?」

「ええ!ほら、提督もずっとこんな状態ですよ!」

「……待って、これ、ひょっとして感動的だとかでこの状態??」

「それ以外に何が?」

何が?じゃないよ!?
たかがピアノ演奏で、どうして廃人みたいになるのよ!!
私のピアノ、怪音波でも出てるの?

「………て、提督さん??」

「……………………」

「提督さん!!提督さん!?てーいとーくさぁーん!??」

返事がない………廃人なのかな?
とりあえず、揺すってみるか。
私は前後左右に提督さんの肩を揺さぶった……が、グイングインとされるがままでこんにゃくのようだ。
しょうがないな………殴ってみよう。
少しショックを与えれば、治るかもしれない。
握り拳を作り、ちょうど骨の出っ張ったところが提督さんの額に当たるようにして、振りかぶってぇーー……

「………はっ!!」

すんでのところで、提督さんは目を覚ました。
えー………っと、私の振り上げた拳はどうすれば……?
行き場のなくなった拳で、後頭部を掻きつつ私は提督さんに尋ねた。

「て、提督さん、大丈夫ですか?おかしかったですよ?(廃人みたいでしたよ?)」

目の前に屈み問いかけると、夢から覚めたような顔をした提督さんが、私の手を強く握った。
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