SHALIMAR -愛の殿堂-


「お隣さん同士です。でも何で俺にそんなことを?」


まだテリーヌの欠片が喉につっかえてる感じで俺はジュースでそれを流し込み聞いたが、つっかえは消え去ることはなかった。いや、実際テリーヌがつっかえてるわけじゃないが。


このつっかえは心のもやもやだ。


「いや…あいつは隣人と仲良くするタイプじゃないから。ちょっと気になって」


それって彼女が俺を気にしてる、って言いたいのか?それだったら俺は役目を果たしていることになる。何と言っても俺は番犬だからな。


だけど下手なことは言えない。すぐ嘘だとバレる恐れありだから。


「彼女に直接聞けばいいじゃないですか」


結局、当たり障りのない返答をかえすことになった。


俺は女性相手だとうまく喋られなくなるけど相手が男なら別だ。思ってることがポンポン口から出る。


でも、言葉は出るのに喉のつっかえたものが取れることはない。


「メールも電話も無視されてるから」と元カレはあっさり言ってまるで「お手上げ」と言わんばかりに肩をすくめる。


「でもこうやって同じ仕事してるじゃないですか」


応援してるわけじゃないけど、同じ男としてその状況にちょっと気の毒に思った。


「仕事とプライベートを切り離すタイプだからね、昔から」


“昔”と言う所をわざと強調して言った気がした。“昔”から俺は彼女のことを良く知ってる、と言いたげだ。


「そうですか」


何とか答えると


「何だよ、張り合いないなー」と元カレの方は不服そう。


張り合い?俺に張り合ってどうするって言うんだ。見た目だけじゃ完全に俺の方が負けてるから、あんたにとっちゃ優位に立ててると思うが?


「あいつから聞いてるっしょ。俺らに何があったのか」


そう言われて俺は目だけを上げた。


「何も聞いてない」と言う答えを浮かべて。


いかにも勘の良さそうな人だったから、俺の視線の意味をすぐに理解したようだ。


「え……まさか何も聞いてないの…?


まぁ体裁が悪いっちゃ悪いしなー」


と元カレの方が今度は戸惑ったように頭の後ろに手をやり、まだ出入り口付近でスタッフと話しこんでいるシェヘラザードを目配せ。


体裁が悪い……?


一体どうゆう別れ方をしたって言うんだ。




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