-リストカット-
春。

入学式


ちゅうがっこういちねんせい。

そう。今日から僕は中学生だ。
なりたくもないのに勝手に入学させられ縛り付けられ強制される義務教育。
この日本に生まれたからには仕方ない。

そうは思っても苦手な集団行動。
息が詰まるような教室。
地獄の休み時間。
上辺だけの教師。
中身のない会話しかしない同級生。

どれをとっても僕をゲンナリさせるには充分だった。
制服のスカーフを結ぶ手がとても重い。
新品のパリパリのセーラー服・・・。と言いたいところだけどそんなもの僕の親が用意してくれるわけない。どこからから持ってきた誰かのお下がりらしい。
所々すすけてるのが分かる。
・・・まぁ誰も僕のことなんか見ないからいいんだけどね。

え?さっきから「僕」って言うのが気になる?
ごめんね。女の子なのに変な一人称だよね。
でも小さい頃から僕は僕なんだ。
周りの子と違ってるのは分かってた。
だけど同じにはなりたくなくて先生が「梨里香ちゃん!女の子は僕じゃなくて私でしょ!」って怒ってきても直す気にはなれなかった。

だって息苦しかったんだ。
どんなだっていいじゃんか。僕は僕なんだもん。

小さい頃から不思議だった。
なぜ女の子ってだけで私と自称することを強制されなければならないのか。

自分のことをなんと呼ぼうと勝手じゃないか。

僕は僕のことを僕って呼ぶのが気に入ってるんだからほっといてくれって。(くどいけどね)

だから反抗した。
意地でも直さなかった。
困り果てたせんせーは親に連絡したけど僕の親なんて僕のことどうでもいいし、家にいないし
いてもそんなの好きにさせればー?って適当な返事して切っちゃうから職員室では要注意親子としてブラックリストにでも乗ってたみたいだよ。
ほんと、わらっちゃう。

うち母子家庭でさ、母親は夜の世界の人間で小さい頃から家にいた事なんてなかった。いても寝てるし僕はいつも1人でいたか誰かに預けられていた。

小学校も高学年になる頃には鍵っ子で1人でなんでもするようになっていた。
そんな人間だから周りからは浮いていていつも独りだった。
ううん、独りでいることを選んでいた。

女の子特有の共感と本音と建前と同調の付き合いが息苦しすぎて僕には向かなかった。
だからといって口が悪くてからかってくるレベルの低い男子とも話す気はなかった。

そんな暗い小学生時代を過ごした僕は見事に周りから浮いたままひとりきりのまま中学生に進級することになった。


「はぁ・・・」

今日何回目の溜息だろう。朝起きて低血圧な中身支度をして。
その間に付いた溜息は余裕で10回は超えていた。

小学生も嫌だったけど、中学生はもっと嫌だ。
私服が許されていた小学生から打って変わって服装、髪型、腕まくりまでも厳しく取り締まられる中学校。
周りと合わせるのが嫌な僕にとって嫌じゃないわけがない。
皆同じ制服を着て皆同じような髪型をする。想像しただけで目眩と吐き気が襲ってきそうだ。
いや、もう襲ってきてる。

時間は刻々と迫ってきて、僕を追い詰める。

行かないという選択肢は親の「どーでもいいけどさぁ、あたしに迷惑だけはかけないでよねー」の一言で消えた。
心底嫌そうな顔を浮かべた母親。
嫌いな母親。
でも僕は今年13歳になる子供で、この嫌いな母親に最低限の生活をさせてもらってる。
悔しいけどその事実が僕の中で母親が絶対で逆らえない恐怖のものとしている。

なにもしてくれない母親。
でもお金だけはくれる母親。
そのお金で生かされる僕。

はやく、おとなになりたい。

きゅっと口を結ぶ。
さぁ、登校の時間だ。
命の次に大事とも言えるスマホを制服のポケットに入れて僕は家を出ていった。











ーキーンコーンカーンコーン・・・ー


「・・・・・・。」


思ってた通り最悪な入学式だった。

クラス表が張り出されてるのを見て自分のクラスに向かい既にグループが出来つつある派手なリア充グループを尻目に大人しく机につき
時間が過ぎるのを待ち、式のために体育館へ向かう。待っていたのはカメラを構える保護者の群れと全員同じ服を着て同じような髪色に髪型をした全校生徒たち。
見た瞬間に吐くかと思った。
こんなに個性が消されている空間気持ち悪くていれたもんじゃない。(いたけど)
そしてただただ長い話を聞き、無駄に疲労し疲れきって教室に戻ってきたのが今。

(カーディガンすら羽織るの許されない校則ってありえない)

どんだけ個性を消すんだ。気持ち悪い。

今朝登校したての時、カーディガンを羽織ったまま教室に入ってきた生徒数名を教師が「校則で禁止されている」と注意してたのを目撃した。
その他黒以外のピン留めや腕につけるヘアゴムなにからなにまで禁止。
ほんと黒好きだね。なんでそこまでされないといけないの?
ほんと学校って軍隊。気持ち悪い。
だから僕は学校って場所が嫌いなんだ。
学校は檻みたいだ。

そして今。スマホは防犯のため持ってきてもいいが校内に入ったら先生に預けるように。なんて担任が言っている。
体育会系の厳しそうな担任。
僕が1番嫌いな人種。
そういや、朝のホームルームでスマホ持ってる人は先生に預けて、なんて回収してたな。
もちろん僕は渡さなかったけど。
ポケットに入りっぱなし。知らん顔。
命の次に大事なんだ、渡すなんてありえない。

幸い席は窓際で不快な話も窓の外をみながら聞き流せる。あーあ、早く終わらないかな。
そんなことをぼーっとしながら考えてたら窓の反射越しに誰かと目が合った。

思わずそちらを見る。

そこにいたのは僕の2つ隣に座っていた大人しそうだけど可愛い女子だった。
髪の毛は天パなのかな?ウェーブがかかっている。
それを低い位置で2つに結んでいた。

また目が合う。

名前もしらないその子と。

(あ、わらった。)

一瞬だけニコッて微笑んだ彼女は僕とは違って白が似合いそうな可愛い笑顔だった。

ーー気まずい。

僕はそれに対してどうすることも出来ずに目線を彼女から逸らしてまた、窓の外を見ることにした。



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