BLACK TRAP ~あの月に誓った日~
「じゃあ、俺は先に帰るぞ」
「あっ、私も帰りまーす。また連絡するね~」
溜め息混じりの咲都と、楽しそうに笑った美愛が立ち上がり、呼び止める暇もなく去っていく。
「……私も帰る」
急に二人きりにされ、気まずくなった私は椅子を引き立ち上がった。
「まだ話は終わってない」
そばへ歩み寄ってきた藤川が、出口へ歩きかけた私を止める。
「名前で呼ばないつもりか?」
「……今さら呼び方変えれないです」
「だったら、七瀬を桜花に連れていくのはナシだな」
「…………」
私は無言で唇を噛む。
藤川の呼び方を変えたくはないけど。
美愛の好きな人のことも気になるし、
どうしても桜花には行きたい。
「こ……」
「ん?」
私の小さな声に反応し、藤川が目を細める。
「……こう、せい」
緊張のあまり声が掠れる。
「何? 聞こえない」
わざとらしく首をかたむけた藤川が、私の口元に耳を寄せる。
「皇世……」
なぜか目尻に涙が溜まり、吐息のようにやっと名前を言えたと思った瞬間。
私は藤川にきつく抱きしめられていた。