BLACK TRAP ~あの月に誓った日~

「じゃあ、俺は先に帰るぞ」

「あっ、私も帰りまーす。また連絡するね~」


溜め息混じりの咲都と、楽しそうに笑った美愛が立ち上がり、呼び止める暇もなく去っていく。


「……私も帰る」


急に二人きりにされ、気まずくなった私は椅子を引き立ち上がった。


「まだ話は終わってない」


そばへ歩み寄ってきた藤川が、出口へ歩きかけた私を止める。


「名前で呼ばないつもりか?」

「……今さら呼び方変えれないです」

「だったら、七瀬を桜花に連れていくのはナシだな」

「…………」


私は無言で唇を噛む。

藤川の呼び方を変えたくはないけど。
美愛の好きな人のことも気になるし、

どうしても桜花には行きたい。


「こ……」

「ん?」


私の小さな声に反応し、藤川が目を細める。


「……こう、せい」


緊張のあまり声が掠れる。


「何? 聞こえない」


わざとらしく首をかたむけた藤川が、私の口元に耳を寄せる。


「皇世……」


なぜか目尻に涙が溜まり、吐息のようにやっと名前を言えたと思った瞬間。

私は藤川にきつく抱きしめられていた。

< 81 / 145 >

この作品をシェア

pagetop