クールなイケメンドクターに拾われましたが溺愛されるなんて聞いてません!
自転車に乗っていたのは大学生くらいのスポーツマンっぽい男の子だった。
よほど急いでいるのだろう、降りることも止まることもなく「すみません!」と転げたわたしに一言叫びまたものすごいスピードで去っていった。
危ないじゃない!と心のなかで怒りながらも、人前で派手にひっくり返った恥ずかしさから急いで立ち上がり周りを見ないようにしてその場をやり過ごしたのだ。
あのとき鞄から財布が飛び出した可能性は十分にある。それに気づかず立ち去ってしまったのであろう。というか、それしか考えられない。
つまりは置き忘れた、落とした、盗まれたのなかでは真ん中に該当する。
こんなときになにやってんだ、わたしは……。
って、わるいのはあの大学生!!もう!!
低めのヒールパンプスをカツカツ鳴らしながらそんなふうに他人のことを考える余裕は、約五分後になくなることになる。
“その可能性”はあまりにもあり得るものだからだ。
自転車とぶつかりそうになったその現場へ近づくにつれ薄々感づいていた。
だが、まだ捨てきれない期待を胸にどうにかこうにかお願いしますと祈りながら足を進める……。