輪舞曲-黒と白のcaprice-

かつん かつんと踵を鳴らしながらずんずんとその男は人目に憚りながら一室を目指す。
ここは、このような男には不必要であり不似合いな場所…、所以清廉なる野戦病院。
病院といえど諸事情で正規の診察を受けれない者が集まる御上非公認で在する場所。
そこは医師免許を剥奪された者や一風変わった所以偏屈者、表世界、世間を追われた非公認での闇医者が集まりでもあった。
殺し屋であるユリアも例外なく、重傷を負った彼女を連れアサギがやってきたのはそんな、後ろめたさを隠し得ないそんな場所だった。

そのような場所に対し、スーツを着下して、ボタンをいくつ外してワイシャツは胸が大きく開いておりそこから見えるのは随分古びてしまっている臙脂色の十字架。
そして抱えられた大量の深紅の薔薇の花束。
どこからともなく口笛が流れ聞こえてくる。
それは男が奏でる物だということは云わずとも周知の知るところであるが。

「…すいませーん。そこの白衣の天使さま、ちょっと俺と話でもしようよ。ちょっと聞きたい事もあるし」

姿そのものと態度というように、少しばかり軽口を挟みひらひらと掌を動かしながら男は通りかかった一人の看護婦に話しかける。
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