ゼフィルス、結婚は嫌よ

再び三度回想へと…この小説はオムニバス形式です

「惑香さん…」え?…義男が自分の名を呼んでいる。Shiny and newシャニィ・アンド・ニューという歌詞への胸の高まりとともに惑香は再び10年前のあの場面へと戻って行った。自分の破婚の事実をなぜ義男が知っていたのか、それに対する義男の釈明はここではすでに終っていて、義男の表情はとても真剣なものへと変わっている。いまから思えば義男が惑香一人の前に現れた時点で、すでに自分の正体を惑香に明かすことを決していたのだろう。だから惑香の詰問じみた視線はそれへのよい誘い水となった分けだ。彼は自らの氏・素性を明かし、意外や彼が惑香とは遠からぬ関係の人間であることも明かしたのだった。それを聞けば義男が探偵の類などでないことはもちろん知れたが、しかし同時に間違いなく、彼が自分へのストーカーであったことも知れたのだった。しかもそれは、美枝子が義男を評して云っていたあの「とても長いのよ。そして深いの」という言葉を心底から納得させられるレベルのものだった。あの時は「それってわかる?」という美枝子の問いにただ「わかんなーい」と無邪気におどけていたのだったが、いまになってみれば改めて美枝子の直感の鋭さに舌を巻く思いである。ただしかし、いま一つの美枝子の義男評「それと惑香、あの男(つまり眼前のこの義男)はとにかくあんたにピュアだよ」に関しては未だ皆目知れぬことだった。それではそれを、すなわち義男の惑香への愛の所以を、以下縷々と記していこう…。
< 25 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop