ゼフィルス、結婚は嫌よ

まだ死んではいかん!

「惑香さん?…」一郎を回想しているかのような惑香を慮って口をつぐんでいた義男がもういいですか?とばかりに惑香の名を呼んだ。「あ、はい。ごめんなさい。ボーッとしたりして。はい、あの、叔父のことは母からも、あなたのお父様からも聞かされてよく覚えています。あの、その、あなたのお父様の命の恩人だったということも…」ああ、思い出してくれたくれたかと喜んだ風の義男が「ええ、そうなんです。あなたの叔父様の鳥居義雄さんは父の命の恩人のみならず、実はこのぼくの命の恩人でもあったのです」と意外なことを云う。
「え?…」
「はい。その…話せば長くなるんですが、実はその、ぼくは15才の頃まで結核の自然耐性菌感染を起こしていて、その間はあの…学校にも行けずに家庭内で療養生活を余儀なくされていたのです。一時は高熱で命が危うくなった時もありました。そんな時にその…あなたの叔父様が夢の中に現れてくれて〝義男君!頑張るんだ!君はきっと直る。良くなる!気をしっかり持って…まだ死んではいかん!〟と励ましてくれたのです。気合を入れてくれた。父から写真を見せられて顔を覚えていたものですから〝ああ…鳥居小父さんだ〟とすぐに気づきました」
「まあ、そうだったんですか…」義男の真摯さに打たれ、これ真実なりを感得した惑香が話を続けるよう相槌を打つ。
「はい。それでぼくはその…その時はもうすっかり生きる気力を無くしていて…何せ学校にもどこにも行けず、殆ど家の中に籠りっ切りでしたからね。ははは。これじゃいったい何の為に生きているんだろうって…まあ、その、鬱屈の極に達していた分けです」
「学校には一度も行けなかったのですか?」
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