ゼフィルス、結婚は嫌よ

1993年6月にバック

「あ、あなたは…え、ええ、一人ですよ。他の面々とはわたし帰り道が違いますので」と答えながらも惑香はなぜ彼がここに現れたのかをいぶしかんでいた。武道館前の九段下の駅の近くでならともかく、ここは青山にある喫茶店だ。なぜここに彼が現れたのか合点が行かない。はたして現れた義男は何者?…いまは気を引き締めるしかない惑香だった。
「ああ、そうですか。いやそれなら、もしお嫌でなかったら席をごいっしょさせていただけませんか?きょうのマドンナとか前回のふじ子ヘミングとか、まだ語り足りないところがあって…どうでしょうか?ぜひ‘あなたと’お話したいのですが」と同席を求める義男を許していいものだろうか、ためらわぬでもなかったが惑香は「え、ええ、どうぞ。わたしひとりでいいのなら」と同席を承諾した。 彼の正体を確かめたかったのもあるけれど、こうして一対一であらためて対面した義男になにかしら温かいものを感じたからだった。かもす雰囲気にとても好感が持てる。それと美枝子の云ったピュアさといったものも確かに伝わって来た。なにに対してピュアなのか、そこまでは知れなかったが。
「本当ですか。いや、ありがたい!(と云いながら惑香の対面に腰掛ける)いや、実は前からあなたとこうしてお話したかったものですから。やっと夢がかないました。いまはもう、それこそ夢見心地です。ははは」と本音だかお世辞だか知れないが照れ笑いする義男に「いっらしゃいませ。ご注文は?」ウエイトレスが注文を取りに来る。「うーんと、こちらと同じアイスコーヒーをください。それと(惑香に)なにかお食べになりませんか?ここの店のサンドイッチはとても評判がいいですよ」と聞きその惑香の承諾も得ずに「そうですね、ミックスサンドがいいかな。あ、じゃお姉さん、ミックスサンドを二人前ください」と勝手に注文してしまう。どうも彼は長居をする気らしい。そのための手段をはかったようだ。惑香は承諾うんぬんはともかくそのサンドイッチをネタにこう聞いてみた。
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