足あとが消えないうちに
 
夢はそのあと、両方の母親からとても怒られたところで終わりを告げる。




「……」


こんな夢をみたのは三日前に届いたあれのせいだと、私はベッドの中から寝転んだまま、机の上に置いてある手紙に目をやった。


厚みのある封書は、一文字が大きい故のそれで、私が同じ内容を書いたとしたら、多分半分の便箋で事足りるだろう。


身体を起こし耳をすます。洗濯機のごうんごうんとした音も、弟たちの右往左往による古びた家の振動も、もう何もしなかった。
当然だ。今日の私の朝は遅い。家族たちは皆、平日の忙しい朝を越えて仕事や学校へ行ってしまった。


温暖な土地でも冬は冬。人の気配のない家という箱は、何故か寒さを増長させる要因を孕む。床に落ちていたカーディガンを拾い上げた。その傍には、昨日準備をした旅行鞄が、その形を膨らませている。


私は、有休休暇を取得して、ゆっくりと朝を迎えている。
……というのは少し嘘で、昨夜寝つきが悪かったせいでの結果もあるのだけれど。


私は今日、幼なじみに会いに行く。


二ヶ月前、職場の異動で雪の多く降る遠くの土地に行ってしまった幼なじみに会いに。


行って、会えたら、私はどうするのだろう。こんな今更な弱音を手紙にしたためてきた幼なじみに対して。ご想像どおり、頬を叩いてしまうかもしれない。


怒るくらいは、きっとしてしまうのだろうな。


別れ際、想いを口に出させてもくれなかった幼なじみに。



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