クールな御曹司と愛され新妻契約
「契約結婚を持ち出したのは俺自身ですが……契約を破棄して、本物の夫婦になることはできませんか」

彼は真剣な様子でそう言い切った。

「本当に……千景さんと、本物の夫婦に?」

信じられないような気持ちで千景さんを見上げると、彼は私から寸分も視線を外さず、誠実な顔つきで口にした。

「ええ。本物の、夫婦です」

そんな夢のようなこと、あっていいのだろうか?

心の深い部分から、もうすでに抑えきれなくなっていた恋心が零れて、じわじわと瞳を熱くする。

「俺の態度だけでは、あなたへ何ひとつ伝えられないのであれば……はっきりと告白させてほしい。
――あなたのことが好きだ。
この気持ちは、夫婦らしくするための偽りなんかじゃなく、本物です。あなたのことが、苦しいくらい愛おしいくて、たまらない」

彼の告白に、もう涙をこらえるのは限界だった。

ぽろり、と溢れた一滴を皮切りに、必死に抑えていた恋愛感情の箍は決壊し、ぼろぼろ、と涙が止まらなくなる。
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