クールな御曹司と愛され新妻契約
彼は真新しいマリッジリングが光る左手でお弁当箱を黒革のビジネスバッグに仕舞い、タブレットをローテーブルの上に置くと、腕時計で時間を確認してソファから立ち上がる。

「そろそろ降りるか……」

会社が手配している送迎の車は八時十分前にマンション下の車寄せへ来る予定になっているが、寡黙で真面目な運転手はいつだって予定時刻の三十分前には必ず待機している。
出発予定時刻よりは随分早いが、千景さんは毎日この時間に家を出るようにしているらしい。

「もっと麗さんとの時間を楽しみたかったんですが、時間切れだ」

「千景さんの帰宅時には必ず在宅していますので、お時間があればまた一緒にお話できたら嬉しいです――きゃっ!」

毎日忙しく帰宅後に夕食の時間も別々になることが多い彼へ伝えていると、彼は不意に私を抱き上げてソファへ座らせ、背もたれに腕をついて私を閉じ込めた。

「俺は話しをするだけじゃ全然足りない……と言ったら、どうします?」

「ど、どうもしませんっ」

大人の色気を振りまきながら悪戯っぽく目を細めた彼は、私の額にかかる前髪を上げるとリップノイズを立てながらキスを落とす。
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