亡いものねだり
結局クレープをスルーしてチョコバナナを食べた後(食べてる間やたら穂香は「バナナはフルーツだから実質ゼロカロリー」と唱えていた。全然太ってないのに)、僕たちは金魚すくいの屋台に来た。


「おじさん、二つ下さい」

「はいよ、二つで六百円ね」



ハチマキを巻いたいかにも祭り男なおじさんがすくい網を渡そうとして、手を止めた。


「とりあえず一つにしたらどうだい? うちの網は結構頑丈だぜ!」

「あ、いえ二つで大丈夫です」

「そうかい? 獲れ過ぎてもちゃんと世話してやってくれよ」



随分金魚に愛情を注いでいる店主だな……と感心しつつ、穂香が網を受け取る横で僕が答える。

「大丈夫ですよ。どちらもヘタクソですし……獲れ過ぎたら二人で半分こしますから」

「そうだね。半分こすればきっと大丈夫だよ」

「わざわざお友達に分けてあげるのかい? 今どきの子はなんて優しい……!」



なぜか感動して瞳を潤ませるおじさんの前で、穂香が網を渡してくる。

「はい。今年こそは絶対負けないんだから」

「僕だってこれだけは譲れないよ」

「とか言って去年は一匹差だったじゃん。だったら今年は罰ゲーム決める?」

「も……もちろん! じゃあ負けた方がなんでも一つ言うこと聞くってことで」

「な、なんでも……⁉」

「もしかしてビビってるの?」



林檎の様に顔を赤らめる穂香を挑発すると、案の定彼女はムキになって言い返してきた。


こういうところは分かりやすいんだけどな。


「言ったわね! やるに決まってるじゃない!」



全力で金魚掬い対決を始めた僕らを、店主さんは不思議そうな表情で見ていた。
< 2 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop