亡いものねだり
ぽちゃん、と静かな音を立てて僕が流れていく……僕の存在そのものが流れ出していく。


「穂香、もう行こう。この場所はお前には良くない」



先輩が手を引くと、穂香はいくらか虹彩の戻った瞳で彼を見つめた。


「どうして、私の為にそこまでしてくれるんですか? 私は自分からおかしくなって先輩を拒絶したのに、どうして……」


対して、先輩は物語の主人公に相応しい回答をした。


「付き合ってるかどうとかそんなの関係ないだろ? 助けたいから助けた、それだけだ」

「……先輩らしい、ですね」

「さあ戻ろう。死んだ人間は返ってこない。俺に唯一出来る償い……それは、君を過去と決別させることだけだ」

「はい……!」



そして穂香は一瞬振り返り、哀切な笑みを浮かべて別れを告げた。


「今までありがとう海斗。もう約束は守れないけど……それでも海斗が大好きだった事実は変わらないよ」



「今度こそ、さようなら」



去っていく二人の足音を聞きながら、僕は頑なに微笑みを崩さなかった。
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