希望の夢路

不安の抹消

「なんでもないよ……」
泣くまいと思えば思うほど、涙が零れ落ちそうになる。
「博人さん…?どうしたんですか?
いつもより…元気ない」
「そんなこと」
「あります!」
彼女の高い声が、僕の言葉を遮った。
「私、すぐわかるんですよ。博人さんが元気ない時。私で良ければ、話聞きます。聞きます、というか聞きたいです。聞くだけじゃ、解決しないかもしれないですけど、一緒に解決策?考えましょう!」
君って娘は、どうしてこう僕を惑わせるんだ。なんていい娘なんだ、君は。
ああ、涙が零れそう。
「博人さん?ひーろーとーさ〜んっ!」
僕が黙ってーいや、涙を堪えていると、僕が彼女の言葉に反応しなかったからなのか、僕の名を二度呼んだ。
ああ、そんな可愛い声で僕の名を呼ぶだなんて…心が乱れに乱れているのに、さらに僕の心を乱す気かい?心愛ちゃん。それは困るな。君を困らせてしまうことになっても、知らないぞ?
君のせいなんだからな?

「心愛ちゃん」
「はい、なんですか?」
「あのさ…会いたい」
「博人さん…」
僕の髪を、冷たい夜風が弄(もてあそ)ぶ。
「今から、って言ったら…迷惑かな」
僕の腕時計は午後八時を示していた。
さすがに遅いし、迷惑かな。
「それは…」
これは、断られるパターンだな。
仕方がない。こんなに遅い時間なんだし、彼女の行動パターンを大きく変えてしまうと、翌日の生活に支障が出てしまう。彼女は特に…体が弱いから。
だから、今日は会えないかもな…。
「ふふっ」
ん?彼女が笑っている?
「ふふふふっ」
彼女が目を細めながら口に手を当てているのが、目に見えるようだ。
どうして笑う?
「ふふっ、私、断りませんよ。安心してください、博人さんっ」
「えっ、本当?」
「はいっ、博人さんっ」
良かった。心愛ちゃんに会えると思うと、自然と元気が湧いてくる。
さっきまであんなに気分が沈んでいたのに、何故だろう。不思議だ。
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