希望の夢路
「お前にできることは、あまりにも少ない」
「あのな…」
智也の胸ぐらを掴んでいた手を、智也にぐっと掴まれた。
「…っ、いて…」
智也は僕の手首を捻った。
「ふっ、どうだ?気が緩むと案外力が弱いんだな?」
「そ、そんなことない…!」
僕はそんなに弱くない。
彼女を守るのが僕の仕事のようなものだ。絶対にこんな奴なんかに、触れさせない。
「いや、弱いな。気を抜きすぎだ」
「弱くなんかない。僕は…」
「そんなんで心愛を守れるのか?」
「守れるに決まってんだろ!」
「無理だな。…痛むだろ?」
智也はくくく、と笑って左手首を押さえていた僕を見て言った。
「ふっ、まあいいさ。心愛は強い男が好きなんだよ。俺みたいな」
「いい加減にしろって」
「心愛のためにも、お前は心愛と別れて俺に譲れ」
「誰が譲るかよ…!」
「ま、よーく考えることだな」
智也はひらひらと手を振って夜の闇に紛れていった。

僕は、彼女に電話をしようか迷っていた。彼女の声を聞きたい。いや、本当は彼女に会いたいんだ。でも、無理を言って急いで来てもらうのもあれだし…。そんなことを考えていると、不意に僕の携帯が鳴った。
「ん?珍しいな、誰から……」
慌ててズボンのポケットから携帯を取り出した。携帯の画面には、愛しい名前の『心愛』の二文字。
「こ、こあちゃん…」
まさか、彼女から電話が来るとは思わなかった。すぐさま通話ボタンを押して携帯を耳に近づけた。
「博人さん…?」
「ああ、心愛ちゃん。どうした?」
「いえ、あの…」
「ん?」
「私、博人さんの声が聞きたくなって…」
照れているのだろう。
彼女の声が少しだけ小さくなっていく。ふふ、と可愛い笑い声も聞こえた。
「そっか…嬉しいな」
彼女の声に、僕は癒される。
ああ、幸せだ。智也の言葉に何度となく打ちのめされていた僕は、涙が出るほど嬉しくなった。
「博人さん…?」
「ここあ、ちゃん…」
「博人さん…?どうしたんですか?」
彼女の声が、僕を気遣う声に変わる。
どこまで優しいんだ、君は。
僕は本当に、泣きそうになっていた。
自分が何故泣きそうになっているのかさえ、わからなくなってきた。
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