希望の夢路

幸せはこの手の中に

だめだ。こんなことをしていたら、心愛は壊れてしまう。大好きな心愛に俺がしてやれることはただひとつ。
あいつに、心愛を返すこと。
心愛を幸せに出来るのは、やはりあいつしかいないんだ。
あいつから心愛を奪おうとしたばかりに、心愛はあいつを失ったショックで左目が全盲になるという最悪の結果にしてしまった。それは俺の責任だ。とても重い責任。だから、陰ながら二人のーあいつと心愛の幸せを祈る。
それだけが、俺ができるせめてもの償い。
「ごめん、智也。私これから、出掛けなきゃいけなくて」
「ああ、そうか。わかった。じゃあな」
「うん、じゃあね」
心愛は、ゆっくりと俺から遠ざかっていく。
俺は、決めた。あいつに、話さなければならない。心愛にはお前が必要なんだと。

「何の用だよ」
あいつは、不機嫌に俺を睨む。
「惚気に来たのか」
「違う」
「じゃあ、何なんだよ」
心愛ほどではないが、余程苦しんだのだろう。 少し、痩せた気がする。
髪は少し乱れていた。
「心愛は、お前に返す」
「何だと!?」
あいつは、博人は俺の胸ぐらを掴んだ。お前はいつもそうやって、俺の胸ぐらを掴むな?そんなに好きなのか、俺の胸ぐらを掴むのが。
「心愛ちゃんを、ものみたいに言うんじゃない!それに、返すとはなんだ?
遊びだったってことなのか!?」
「違う」
「何が違う?心愛ちゃんを返すってことは…!」
俺は、博人の胸ぐらを掴んだ。
これでおあいこ、だろ?
「心愛は、お前じゃなきゃダメなんだよ。お前じゃなきゃ、心愛は壊れてしまう」
「…」
「心愛は、お前のことしか頭にないんだ。それが、よくわかったんだ」
「言い訳すんなよ」
「言い訳じゃない。本当のことだ」
俺は今、博人の家にいる。
「でも、よかったじゃない。博人、別れを告げてもずーっと大好き大好き言ってたじゃない」
「保乃果…それは確かにそうだけど」
保乃果は、博人の元カノで心愛とは友達、らしい。
「心愛を幸せにできるのは、お前しかいないんだよ」
「……責任放棄じゃないか。僕は許さない」
「それは、悪いと思ってる」
「……もう二度と、心愛ちゃんに触れるんじゃない!許さない。僕は許さないからな。心愛ちゃんを振り回して傷つけたお前を、僕は許さない」
「ああ、許されることじゃない。俺がしたことは、一生償っても償いきれない。心愛を壊したのは俺だからな」
「まあまあ、ね、博人。心愛ちゃんに会ってきたら?ほらっ、善は急げっていうでしょ!」
「そうだな…」
「俺は取り返しのつかないことをしてしまった」
俺の呟きに、博人は玄関へ向かおうとした足を止めた。
「は?取り返しのつかないこと?」
「あ、いや、何でもねえよ」
「何だよ、取り返しのつかないことって」
「何でもねえって」
「言えよ!」
気まずい空気が、辺りを包んだ。

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