希望の夢路
「いや、その」
俺はたじろいだ。まさか、博人が俺の呟きを気にするとは思いもしなかった。でも、いずれ露見することだ。
隠していても、いつかはわかってしまうだろう。心愛には悪いが、本当のことを話そう。俺は、悪者になる覚悟はとっくにできている。俺は、悪役。
「早く言え」
怒りに震える博人は、怖かった。
「心愛は……目が見えなくなったんだよ」
「……は?」
博人の目が見開かれる。
保乃果も、えっ、と声を上げた。

「目が見えないだと…?」
博人の眉間に皺が寄る。
「説明しろ」
「心愛はな……全盲になってしまったんだ」
「ぜ、……」
博人は力が抜けて、床に崩れ落ちた。
「ひ、博人…!大丈夫!?」
「大丈夫なわけないだろ」
「博人…」
「全盲だと…!?」
「そうだ」
「全く、両目とも見えないのか?」
「いいや、左目だけだ。視力は悪いが、右はちゃんと見えている」
「……お前が」
「ん?」
「お前が、お前が心愛ちゃんを壊した!僕の大好きな大切な心愛ちゃんを、お前が壊したんだ!ふざけるな!!」
「ちょっ、博人!やめてよ!」
博人は保乃果の静止を振り切り、俺を殴った。何度も何度も殴った。
こいつ、強いぞ。やべえ、馬鹿にしてた俺が間違ってた。こいつ、かなり強い。俺と、いい勝負だな。
「…っ、これなら…心愛を充分、守れるな…」
博人に思いっきり何度も殴られて、俺は口から出血していた。出血していたとわかるまでに、少し時間がかかった。
「ごめんね、痛いでしょ?許してね」
保乃果が頭を下げて謝った。
「いいんですよ、悪いのは俺だから。心愛を奪わなければ、こんなことにはならなかった」
保乃果は、博人が殴ってできた傷を手当してくれた。優しく。
「……っ、いて…」
「痛いでしょ?博人、心愛ちゃんを守るために鍛えてたの。逞しくなったわあ…」
保乃果も、俺と同じ。
ずっと好きな人を忘れられないという点では、一緒。
「まじで…いてえ。強すぎんじゃねえの……」
これなら、俺が陰ながら守る必要はねえな。心愛を幸せにしろよ。
そうじゃないと承知しねえからな。
「……心愛ちゃんは本当に見えないんだな?」
「左だけな」
「……お前のせいだ」
「そうだ」
「何もかもお前のせいだ」
「ああ、俺のせいだよ」
「絶対に幸せになってやる。心愛ちゃんは僕が幸せにする」
「ああ、そうしてくれ」
俺は、ひりひりする顔にできた痣を触りながら言った。

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