希望の夢路
だって私、心愛ちゃん好きだもん。
良い友達、親友。
私は勝手に、心愛ちゃんと親友だと思っている。
心愛ちゃんはどう思っているか、わからないけれど…。
「なんで私も行かなきゃいけないのよ」
「いいから来てくれよ」
「だから、何で」
「どうしたらいいかわからないんだよ。
もし、本当に心愛ちゃんが倒れていたらどうしていいかわかんない。
だから…ついてきてくれないか。保乃果がいたら、少しは冷静になれるかもしれないし…」

何だ、その言い方は。
確かに、パニックになってどうしていいかわからない気持ちはわかる。
しかし聞き捨てならないのは、私がいたら少しは冷静になれるかもしれない、ということ。
ああ、なんて酷い。人の恋心をいとも簡単に踏みにじるとは。
「なんて日だ!」と叫びたいけれど、そんな自分が情けないからやめておく。
パニックになって、恐らく自分が何を言いたいのか何を言っているのか、
博人自身わかっていないんだな、きっと。こんなに青ざめるくらいだもんね。

私はちらりと博人を見た。
博人は私の言葉を待っている。
「はあ…仕方ない、行くよ。行けばいいんでしょ」
要するに、私がいると心強いーそういうこと。
「よかった…!じゃあ行こう!心愛ちゃんも、保乃果が来たら喜ぶだろうし」
博人は笑顔になった。
私と博人は、心愛ちゃん家を急いで目指した。―が、博人のスピードが速い。
こんなに、足速かったっけ…。
「はあ…はやい…ちょっ…ひろと…」
博人は後ろを振り返り、私を見てはっとした。
「…ごめん、保乃果!速かったね…少し、休む?」
―休みたい。博人と、心愛ちゃん以外のことを楽しく笑って話したい。
そんなことを思う自分が情けなく、心愛ちゃんに申し訳ないと思った。
こんな私と仲良くしてくれる心愛ちゃんは、とても寛容で優しすぎる心の持ち主。
優しすぎて、心配になるーそんな博人の気持ちはとてもよく、わかる。
「いや、大丈夫…でも、もう少し…ペース落としてくれない?」
「わかった…ごめんな」私を見るその目は、優しかった。
止めて、そんな目で私を見るの。そんな目で見られたら、私、我慢できなくなる。
『好き』の気持ちが、溢れてきてしまう。
心愛ちゃんは、博人のこの優しい目が好きなんだろうな。わかる。勘違いしちゃうもの。
「いつの間に、そんな足速くなったの」
足の速さは人並みだったはずなのに、いつの間にこんなに速くなったんだろう。
「ああ、まあ…鍛えてるからな」
博人は笑った。
「仕事柄歩くことが多いっていうのもあるけど、鍛えてもいるんだ。その成果かな」
博人は、私の歩調に合わせて歩きながら言った。
「心愛ちゃんのため?」
「ん?まあ、そうだね」
博人は照れくさそうに笑った。
「自分のためじゃないんだ」
「それもあるけど…一番は、心愛ちゃんのため」
「…」
私は黙った。これ以上は聞きたくない。
これ以上聞いてしまったら、嫉妬という感情でおかしくなってしまいそうだから。
「心愛ちゃんは、体が弱い。だからこそ、僕がしっかり守らなきゃいけない。
僕が守るんだ、心愛ちゃんを。それに、心愛ちゃんに、逞しいですね…って言われたいし…」
博人は、にやけていた。
「なによ、気持ち悪い。鼻の下伸ばしちゃって」
「いいだろ、別に」
「はいはい、わかったから。急ご」
聞いてもいないのにべらべらと…。
私がどんな気持ちでいるか、まるでわかってない。

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