希望の夢路
「心愛、もう大丈夫?」
「うん、ありがとうパパ」
心愛はにっこりと僕に笑いかけた。
結愛はぐっすりと眠っている。
「パパじゃない。今は、心愛の夫だ」
「もう…ひろくんったら」
心愛が、恥ずかしそうに目を逸らした。
「夢のようだ。こんなふうに、結愛と心愛と過ごせるだなんて」
子供を持つことはできないと諦めていた僕にとっては、毎日が新鮮で輝いている。それは、心愛と結愛がいるから。
「私も…ひろくんと結愛がいるからよ、こんなに楽しいのは」
心愛はすやすや眠る結愛を見て、目を細めた。

心愛のお腹に命が宿っていると知った時、どんな名前にしようかと二人で考えた。女の子だということはわかっていたから、可愛らしい名前をつけたいなと思ってはいた。
しかし、なかなか決まらない。
名前を決めるということは、簡単そうでいて案外難しいものなのだなと思った。
「心愛の愛という字を入れたんだよな」
「うん。愛情たっぷりに育てて、愛のある子に育って欲しかったから」
「字のごとく、だな」
僕は微笑んだ。
「愛を結ぶ、か」
「良い名前でしょ?」
心愛が自信満々に言うから、思わず僕は笑みを零した。
「私とひろくんみたいに、素敵な愛を結んで育てていって欲しいなって」
「僕もそう思ってる。結愛なら、幸せになれるよ。僕達の子だからな」
「ふふ、そうね」
むにゃむにゃ、と言いながら夢を見ているであろう結愛を、心愛はじっと見つめていた。
「結愛もそのうち、愛の結び方を理解できるようになるさ」
「ふふっ、ひろくんうまいこと言うね」
心愛が笑うと、結愛がふと目を覚ました。
「あ、結愛。ごめんね、起こしちゃった?」
「ママ〜、私こっち来る!」
「ん?」
心愛は首を傾げた。
結愛はベッドの上に立ちあがり、僕と心愛の真ん中に立った。そして、ごろんと寝転がったかと思うと、僕の手と心愛の手をしっかりと握った。
「ママ、パパ、おやすみっ!」
「おやすみ、結愛」
心愛が、結愛の手をぎゅっと握った。
「結愛、おやすみ」
僕も、結愛の手を優しく握りしめた。
既にすーすーと寝息を立てている結愛を見て笑みを零した僕と心愛は、互いの顔を見合わせた。
「寝ようか」
「うん、寝ましょう」
僕と心愛は、真ん中にいる結愛を挟んで向かい合った。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
僕と心愛は、おやすみの挨拶をして静かに目を閉じた。

翌日も翌々日も、慌ただしく忙しい朝になるのだけれど、そんなことはどうでもいい。愛する妻、心愛と愛娘、結愛と一緒にいられるーそれだけが僕の幸せの道なんだ。


そうー希望の夢路。



今日も、その一歩を、
愛する人と共に進んでいく。





END


< 205 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop