もう、我慢すんのやめた


「芽唯」


弥一はいつだってそう。


私のファーストキスを奪ったあの時も
私にそばにいて欲しいって言ったあの時も


結局、私と向き合うのはそのときだけで。


追いかけてきてくれたりしない。
好き放題私の心を乱すだけ乱して、ほっとくんだ。


「……っ」


弥一が私の名前を呼んだせいでクラス中がザワついた。


”知り合い?”とか”どんな関係かな?”とか。
心底ほっとけって思う。


なんで、佐倉いないの。



「芽唯……、この間はごめん!」



私のいる窓際までゆっくり歩いてくる弥一。これ以上後ずされない私。

逃げ出そうにも足は鉛みたいに動かない。


「いっつも、自分勝手でごめんな。でも、芽唯にそばにいて欲しいって言ったのは本心だし、考えれば考えるほど他のやつに渡したくないって思う」

「……やめて!」


こんな教室の真ん中で。
みんなの前で変なこと言うのはやめて。


そんな気持ちから、キッと強く弥一を睨む。
弥一は少し驚いた顔をしたけど、それも一瞬で。


「今さらって思うかもしれねぇけど、俺やっぱ芽唯が好きだ」

「っ、」



目の前で悲しく揺れる瞳。
騙されない。騙されてたまるか。
< 133 / 233 >

この作品をシェア

pagetop