もう、我慢すんのやめた


金縛りにあったみたいに体は動かないのに、どういうわけか視力や聴力は奪ってくれないもんだから


佐倉の困ったような表情がハッキリ見えて、
佐倉の冷たい声がやけによく聞こえた。



『松永』


確かに、佐倉はそう言った。

たったそれだけの事なのに、胸は潰れそうなほど痛くて、涙だけがただ流れ続ける。



もう、芽唯って呼んでくれないの?
そんな言葉は、嗚咽に邪魔されて声にならないまま。



「もう松永の涙、拭いてやれねぇ。だから、俺の前で簡単に泣くな」



やだよって。
ちゃんと聞いて?って。


伝えたいことは沢山あるはずなのに、そのどれもがもう遅すぎる言葉たちな気さえしてきて。


あー、私って本当にバカだな、って思った。



───キーンコーンカーンコーン

校内に鳴り響く1限目を知らせるチャイム。
もう、数学のワークなんかどうでも良くて、佐倉との重い空気に潰されそうで。


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